四百一生目 心臓
カルクックに乗ったまま射撃。
それは独特のテクニックがいるらしく思ったよりも当たらない。
降りて追いかけ回して当てたい。
しかしそれではだめなのだ。
そもそも2足歩行ではそんなに速度はでないし。
……カルクックより速く動けるもののそれをやってしまうのは明らかにオーバースピード。
平然と車を追い抜き走るのをどこまでニンゲンと思えるかと言うものでそこまでやってしまうのはまだはやい。
なんなら色々気にしなければ多分ニンゲンたちの殲滅はできるんだけれどやりたいことやって滅茶苦茶にするのは暴虐の神でしかない。
とにかく全員の無事を確保しつつ地道に数を減らしていく。
また空の方で動きがあった。
砲台が動き出しているっぽい。
飛空艇の砲台がこちらを見つめてくる。
まだ数分は余裕があるだろうが数分なんて追いかけっこしていれば一瞬だ。
私は当たらない銃を止め魔法に集中する。
幸い戦場には味方が少なくて巻き込み事故がおきにくい。
味方無効指定……完了。
敵範囲……捕捉。
そして……瞬時着替え。
私の服装が瞬時着替えの魔法技術によって一瞬で切り替わる。
さっきまでの汎用的な服から
こういう時に使う魔法こそが。
「地魔法……"クエイク"!」
地震。
端的に言えばこの魔法はそうなる。
私を中心に地震が起こる魔法だ。
もちろんその衝撃波は光となって襲いかかる。
「「うわあ!?」」
「なっ!?」
「何!?」
「ゆれ」
「……てない?」
味方は魔法の力を受けても平然としている。
味方指定魔法は味方への影響をよくとも悪くともゼロにしてくれる。
敵に対して味方指定してから範囲回復すると本来の味方だけが治るというのは回復術師基本のテクだ。
ほんと大群に対しては地震がすごく効果がある魔法。
飛んでいるやつはひとりもいないからひと通りみんな吹き飛んでいる。
ただ隊長クラスあたりは受け身や防ぎ技を使って少しでも軽減しているなあ……
「ぐうっ、くっ、この力、動けない……!」
「まずいぞ、柵が!」
「助かった、今のは魔法だな? いくぞ!」
ゴルガや御者さんは状況をすぐに把握してくれたらしい。
遠くの鳥止めがいくつか崩壊した。
周りが動けるようになる前にこっちが先に駆け出す。
そのまま走ってこの狭い囲いからやっと抜け出して……
とやっている間に上のほうがだいぶ不穏になってきた。
おそらくはそろそろ発射準備が終わるらしい。
大砲がなるべくこちらのほうを向いて船の向きが変わって行き。
……爆発が起きた!
「な、なんだ!?」
「今、中から爆発していなかったか……?」
飛空艇の内側からの爆発。
それは外から見たものならなんとなくわかっただろうが。
内側はそれすらわからない。
『緊急! 緊急!!』
『どこだ!?』
『格納庫だ! 急げ!』
ドタドタと走り回る音すらどこか他人事のように聴こえる。
ここは飛空艇内部。
剣ゼロエネミーがもちろん爆発させました。
派手な穴があいたが別に剣ゼロエネミーは大したことはしていない。
格納庫は便利なことに封入された火薬や剥き出しの金属それにエネルギー流通路たちなうえ無人とちょっと。
荷物を移動させたりぶちまけたりしたあと適当に金属をきって火花を散らせば燃えるものたちがいくつもあったので燃え移り結果こうなった。
しばらくは良く燃えるだろう。
謎の爆発と消火活動と警備に走るからほかが手薄になる。
特にここは上空。
侵入口があるとすればほぼほぼ今の爆発穴だ。
既に忍び込まれているとはつゆ知らず彼らは動く。
にしてもやりづらい。
できうる限りニンゲンたちに致命傷を負わせたくない。
回復できる範囲だとしても。
なぜなら彼らの肩や胸に見覚えのある印章。
警備ギルドである。
下の雑兵たちや荷運びしているのは兵やらなんやらみたいなのだが飛空艇を警備しているのは別街の警備ギルド。
身内の潰し合いにもほどがある。
あくまで倒したいのはこんなのを命令し画策した相手。
残念ながら船長はいるものの犯人はいない。
先程から戦闘し船体の様子を見るものの徹底的に家名やら家紋を消してある。
最悪自分たちのもとにたどり着けないようにするつもりだ。
だとすれば飛空艇所持を公表していない相手が今回の犯人。
アール・グレイならば絞れるだろう。
司令部……はどちらでも良いとして。
こっそりと忍び込んだのはエンジン室。
燃料にあたる魔力石コンテナとその供給先。
……大きい。
本物の飛空艇コア。
私が両手を広げても届かないくらいやたら大きい発光する石がそこにあった。




