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三百九十八生目 支配

 倒れたカルクックに巻き込まれないように班リーダーが飛び降り抜け出す。

 受け身をとって即座にこちらへと身構えた。

 これで足止めはできたはずだ。


 カルクックもまだ立ち上がる。

 強靭だ……


「さっきから……なんなのだその銃は。小型で、火力は砲撃の如く、常に弾を吐き、薬莢も出さない。おかげで取り逃しが起こってしまった」


「何って……」


 銃ビーストセージのことを説明するには難しくなおかつ私の秘密にも関わる。

 だから……そうだなあ。


「……魔法の銃だよ」


「エクセレントハイレア以上のユニーク品か! その銃、もらい受ける!」


 そういえばそんな区分もあったなあ。

 剣ゼロエネミーがエクセレントハイレアと言われたのはまだ神器ではなかったころ。

 多分この銃もゼロエネミーも今ではとんでもない価値があるのだろう。


 ちなみにあまりな価値のものはたった今やられそうなように国の管理になったり貴族的な立ち位置のものの管理になったりして得がない。

 なのでうっかり鑑定には出せないのだ。


 相手も銃を取り出してくる。

 先に刃の固定した銃剣というやつか。

 銃身が長く近接戦闘もこなせて危険。


「遠隔部隊はこいつを取り囲み、撃て! 近接部隊は鳥車を追え!」


 たくさんの銃口がこちらを向く。

 いくらかのニンゲンたちが鳥車の方に向かって走り……

 追いつけないだろうけれど単純な物量差がまずい。


「間に合ったな!」


「ゴルガ!」


 ゴルガが背後からやっと追いついてこれたらしい。

 近接部隊がここから離脱するのを見てなんとなく察したようだ。

 再度肩で息をしながら走る。


「くそっ、わかったよ、走ればいいんだろう!」


「頼んだよ!」


 私は私で銃弾の雨嵐が一斉に降り注いできた。

 射撃たちをまともに喰らえば1つ1つは小さくとも痛いものは痛い。

 まずは"畳返し"で目の前の地面をひっくり返して盾にする。


 すぐに動いて別方向からの射撃に対応。

 直線的でわかりやすいし早く小さいから"すり抜け回避"。

 攻撃は当たらない!


「じ、地面が!?」

「捉えた! ……手応えがない!?」


 ここで(くう)魔法"ミラービジョン"。

 木陰に飛び込んだ後に使って……

 大量の分身をばらまく!


「別れた!?」


「違う……攻撃が当たらないやつがいるぞ! 魔法で作った偽物たちだ! 本物を割り出せ!」


 私と私と私と私達が木陰や茂みに飛び込んで銃弾を避けながら本物と偽物が入れ替わり立ち代わり襲う。

 先程撃って偽物だと思ったのに次の瞬間入れ替わってて撃ち込まれる。

 奇術師みたいな立ち回りだけど案外アリみたいだ……


 ゴルガが十分離れたのを見て2つの魔法を混ぜて放つ。

 地魔法"ランドホンス"!

 そして(くう)魔法"ディメーションスラッシュ"だ!


 ……空間が曲がる。

 それは狭い範囲の歪みではない。

 この近く全ての地面から次々と歪みが起きる。


「な、なんだ!? 足がっ……!?」

「ぐえっ、また!?」


「うわあああっ!」

「俺の足が、足が!」

「痛い、痛い!」


 この場で敵の全員に襲いかかるのは空間の刃。

 どんどんと空間のネジ曲がりが伸びていく。

 膝下くらいの高さまで伸びてはっきりとその輪郭は現れた。


 私も魔力(かぜ)を受けて服がなびきまだ反動で動けない。

 つまり魔法がまだ未完成なのを表す。

 この魔力送信で……完成!


 みんなが空間の歪みの刃に足元を囚われて怯み動けなくなっていたが……

 斬撃のような音と共に足元の歪みが空間ごと切り裂かれる。

 ズレた空間は僅かな時間ながらこの世界がまるで壊れたかのように見えた。


 そして空間が元に戻る。


「「ぐわああぁ!!」」


 全員が膝から崩れ落ちる。

 1度足が切り離されたあとくっついたひずみで内部と外部が均等に斬れる。

 この魔法の場合同時に刺さるだろうしかなり痛い。


 生命力に対しての打撃と部位への打撃が2度おいしい魔法に化けた。

 倒れた相手は別に足が切れ落ちたわけではない。

 差はあるがいずれ立ち上がり治し歩くだろう。


 ただこれでもうしばらく走れない。

 今はこれで……班リーダー以外は。


「にが……さん……!」


 もう立ち上がってきたが今ならふらついている。

 しばらく気を失ってもらおう。

 こういう時に良いのは……


 私は銃ビーストセージを両手で持ち……

 一気に班リーダーに距離を詰める。

 ここで。


「なっ!? 速……」


「"正気落とし"!」


 武技の中でも変わり種のこれを振るう。

 銃の底を思いっきり振るって……

 前頭部に叩き込む。


 班リーダーはその衝撃で銃剣を手放しそのまま気を失い倒れた。


「り、リーダーがやられた!?」

「やばい、撫で切りは、撫で切りは嫌だ!」


 場がざわついているのにまだ逃げる足になれないという恐怖。

 それがこの場を支配した。

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