三百九十六生目 侵入
空の飛空艇は不気味にたくさんの砲門を開いたまま漂っている。
そんなに小回りは効かないだろうし連射といっても遅いから……
きっと初撃でできうる限り被弾させてくる正確観測を待っている。
向こうは正直1発でも当たれば凄い効果があるのだ。
上空のモンスターを撃ち払うためにつけられた砲台は少なくとも飾りのような威力ではない……
「全員、少し耳を塞げ」
ゴルガは懐から何かを取り出して鳥車に飛び乗りつつ大きく息を吸い込み……
飛空艇へ向かって口を開いた。
「こちらは!! 国王から御下命を賜り動いている隊列である!! 未確認の飛空艇は!! 即刻訪問理由を明らかにするか!! 武装解除せよ!! 場合によっては!! 国王への叛逆とみなし!! 撫で切りに処する!!」
声が空まで響く……!
「な、撫で切り……全員殺すって、いろんな意味でまずいのでは?」
ゴルガは取り出した拡声器だったらしい石から口を離しこちらを向く。
「このぐらいハッタリを効かせたほうが良い。相手の意志がよくわかる。それじゃあ、もう一度……」
ゴルガがそう言って再度石に口を近づけた。
その時砲門たちが調整されこちらを向いた気がした。
「繰り返す!! こちらは!! 国王――」
「やべえ! あれ撃ってくる!」
「走れ! 木陰に逃げこめ!」
「頼むカルクックたち!」
「え? なんなのいきなりさっきから騒がしいし急かすし……とにかく走るか!」
「ねえ兄ちゃん、空に浮かんだものが何かキラキラしているよ」
カルクックたちはのんきにそんなことを言っているが脚だけはちゃんと動かしてくれる。
高速で駆け出し大きく鳥車は揺れ……
「伏せろ!」
全員鳥車内でしがみつき伏せる。
近くで轟音が響く。
鳥車を外から"鷹目"で見れば次々と地面に向かって放たれているのがわかる。
「「嘘だろー!!」」
「走ろう兄ちゃん!!」
「しぬしぬしぬしぬしぬしぬし」
凄まじい地響きと轟音でまともなら耳や平衡感覚がやられる。
私は必死に意識的なシャットアウトしつつ砲撃の嵐に耐える。
幸い攻撃が集中したのはこの鳥車らしく背後の方で攻撃はそんなにない。
鳥車たちはこちらについてこようとするけれど砲撃がひどくて方向を変えバラバラに逃げている。
むしろパニックと言っていいかも。
さっきからこの鳥車も何度か巨大な砲弾が掠めている。
さらに飛空艇のほうを見ると動きながら連続で物を落としている。
機雷だ! 行く先々に近づくと爆発するタイプの魔法機雷をばらまいているのか!?
あんまりにもあんまりな絨毯砲撃。
幸い御者がうまく必死に操って街道から離れ木々の間を突っ切っている。
逃れることはできないだろうけれど……
「お、怒らせたのか!?」
「こういうこっちの宣言は、覚悟がキマっているトップのやつらというよりも、頭数揃えるための雑兵共に効果が高い。どうせ奴らは撃ってきたんだろうからな!」
「それもそうだー!」
みんな耳を抑え鳥車に伏せて必死に第一波を耐える。
やがて音がおさまる。
外の景色的にどうやら第一波をしのいだらしい。
だが当然空にはまだ飛空艇がいる。
他の鳥車を守らなくちゃならない。
私達は全員で合意し……
「この車は囮にしつつ、先に駆けてできうる限り近くの街に逃げこむ! さすがにそこで爆破できないし応援を呼べる! 金竜の幸運を!」
「「おおー!」」
鳥車の速度を落とさずに私達は飛び降りていく。
鳥車はそのまま駆けていき木々の間を抜けていく。
私達の姿なんて飛空艇からすれば豆粒みたいなものだ。
肝心なのは……
「包囲網を抜けれると良いけれど……」
「陸の部隊か。本当にいるとして、お前が教えた通りに抜けるだろうが……その先に罠があるかもしれない。期待できるのは五分ないくらいだな」
本当に生き延びてほしい。
「解散! 命をかけて守れ!」
全員で急いでそれぞれ鳥車が散った方向へと走る。
私はゴルガと共にドラーグの方へと行く事に。
個人の方が行きやすいとか今は言ってられない。
飛空艇は危険を極めるがその実大多数いる陸部隊が1番危険だ。
おそらくはバラバラになったとこらで各個撃破するのが敵の目的。
逆に集合するようなら空から撃てば良いのでかなりやりづらい。
どこかのタイミングで空に抜けよう。
今のところこっちは静かだが時折遠くから轟音が響く。
長くはもたない……
「おーい! 俺は置いていけー! 後で追いつく……ぜぇぜぇ」
ゴルガは走っていて振り切った。
もうそろそろドラーグたちと合流する。
私はこっそりと剣ゼロエネミーを抜き空にうかべ……
そのまま剣ゼロエネミーを空に飛ばして。
開いている門から侵入させることにした。
たのんだよ!




