三百九十二生目 運動
アール・グレイが夜中なのにおきていた。
たき火にあたり何をするでもなくくつろいでいる。
「アール・グレイさん、まだ眠れないんですか?」
「ローズオーラさん」
こちらを見て微笑む。
ただどことなく疲れが見えた。
肉体的なものもあるだろうが精神的なものが大きいだろう。
「ワタクシは、昔から多くの旅行することが多くて、その影響か夜の焚き火にあたるとすごく安心できるんですよ。長い夜、本もあれば良かったのですけれどね」
「まだまだ日程はありますから、無理しないでくださいね」
「いえ、ワタクシは何もしていないですから……むしろ、ローズオーラさんの方が大変ではないですか?」
アール・グレイはこちらを心配そうに見てくれるが……
正直カルクック任せに座っていただけだからなあ。
驚くほど何もやってない。
本当は魔法で飛ばしちゃえば1番の近道なのだが今回はそれを禁じられている。
こういう行脚を見せるの自体に意味があるからだ。
堂々としていなくては駄目らしい。
当たり前だが権力者はワープ系の使い手を雇うという手も多くある。
それでも昔からの風習として守られているとかで。
まあ1番地方の力を削れるからね。
「いや、私は座ってるだけで楽でしたね。少し体が鈍るかと」
「アナタもですか。少し体を動かすのに付き合ってください、さすがに体が眠りを求めるような疲労がまったくなくて……」
私とアール・グレイは立ち上がり焚き火から少し離れた位置に行く。
周囲の警備班には連絡を送り私がアール・グレイの指示という形で少し離れるむねを伝え……
そのまま遠くでアール・グレイと向き合う。
簡易な照明として光神術"ライト"を私とアール・グレイ両者でうかべる。
光神術は割とニンゲンも使う。
ただ案外"ライト"くらいで大変そうだけど。
「そういえば、冒険者とはどのような準備運動するんだろうか? 肉体を多く動かす職には基本的にあるとは聞きますが……」
「まあ、みんな色々ですね。私なりのやり方を私と一緒にしましょうやか」
あんまり2足型で準備運動はしないができないわけではない。
というわけで。
アール・グレイと体をほぐしていく。
ふたりいるので組んで体をほぐせる。
アール・グレイにはこちらの指示に従ってもらいつつ体を組んで……
様々な体勢で引っ張ったり押したり固定したり。
「うっ、くっ、やっ」
「結構、かなり、キツイですね……!」
「そういえば、何か話が、あるんじゃあないですか?」
私はアール・グレイの腕と肩を引き伸ばしつつ話す。
すでに若干アール・グレイがバテているものの許容範囲内。
むしろある程度の疲労を感じるくらいちゃんとやってくれていて助かる。
「まあ、あるようなないような……言ってしまえば、漠然とした不安です。ワタクシは自分がすべきことをただしいと思っていますし、それのために尽力します。しかし、関わる相手がとても多い中、この先までしっかり考えておかねば、どこかで苦しくなる……しかし、今はそこまで遠くは見えない。そんな不安が」
「でも、策は練ってあるんですよね?」
「ええ。だいたい後釜の王に推す相手も今後の道筋によって選ぶので決まっています。しかし、かなり苦しい中からの選択ですが……」
こういう時よくあるのがどのハズレのほうがダメージが少ないかと選ぶやつだ。
正直この国の歪みは権力者層にもしっかり及んでいるようで数年でポンポンと改善できない。
「アール・グレイさんが王になるのは?」
「いえ、権力が欲しくてやるわけではありません。そういう国は、必ずうまくいきませんから。ワタクシは辺境を将来おさめる役割もありますし、王としての勉学もとっておりません。なのでそれは……あだだ!?」
「あー、これは凝ってますねえ……」
足腰を伸ばす運動でアール・グレイの足を引っ張ったら良く凝り固まっていた。
座りっぱなしだったしこれなら確かに体を動かしたくなるかも。
それにアール・グレイの考えが思ったよりもしっかりしている。
それこそ言うほど未来のことを考えずに動いている感じはない。
だからこその漠然とした不安か……
「こんな感じですね。だいぶほぐれましたか?」
「ハァ、ハァ……確かに、体の方は……」
「では、少しお付き合いします」
私は亜空間から直剣を取り出す。
この刃は潰してあり訓練用に軽い。
相手に1本を渡しこっちも1本持つ。
「おお……当然のように空中から剣を……おっと、もらいます」
「こっちは打ち込まないので、ご自由にどうぞ!」
「では胸をお借りして。せいやっ!」
正面に向き合いアール・グレイはまっすぐ踏み込む。
光はなしだからあくまで訓練にするつもりだろう。




