三百八十七生目 神々
小さな象は象と言えるような姿はしていなかった。
生物というより幽霊みたいに体が光で構成され……
のっぺりとした存在感の小象は鼻がすらりと長く肌たちはシワもない。
体と頭が分離していてまるで顔部分が仮面のようにも見えた。
しかし目ははっきりとしておりその目の中にキラキラとした四角いエフェクトがちらつく。
まるでこの部屋みたいだ。
「あら、本当だ。妾たち以外に神がいるだなんて」
「しかも出歩いていると見た」
「普段隠しているのはなぜ?」
そうこう言っていたらあちこちの壁から抽象的な造形をしたものたちが現れてくる。
すごい……神がたくさんだ。
どれもこれもなんだか存在が希薄というか儚いように見えるけれど。
「あの、あなたたちは一体……? 誘われたかのように見えてきたのですが」
「ちゃんと気づけたね」
「ああ、いいね」
数は6体の神たち。
床が変形し机になり低い椅子へと各自座る。
1つだけ椅子が残っている。
私は誘われるように椅子へと座る。
「わたしたちは、この土地神」
「忘れられた神」
「奪われた神」
「わたしたちの力が戻る時まで耐え忍ぶ者」
「えっ、ここの神様!? しかも……何か重いことがあるようだけど」
いきなり物騒な単語たちが出てきた。
まるでグルシムのようだ。
グルシムとは違ってこっちはまるで消えそうな儚さがあるが。
彼らはみな一様に情報量の少ない姿をしておりまるで節約しているかのよう。
ぎりぎりこの世にいると言えそうだ。
「今は大河王国と呼ばれる土地で、多くの神たちがいた」
「ニンゲンたちの国が分かれていた頃、魔物たち、ニンゲンたち、多くの話があって、信じられていた」
「様々な伝承や語りによる信仰、それと大自然や作りや場所そのものに宿る神たちですね。あれ、でも今の信仰たちは5大竜を……」
「しかし、ニンゲンたちの国が1つになった今、簒奪された」
「形を歪められ、無くされた。5大竜すらも権威を利用されている」
「この国すべてを1つの神が後から神域として覆っている。すべてを余所から奪って成り立たせている」
「5大竜すら利用されている……? 5大竜信仰ではないの? すべて奪っているって……」
「5大竜信仰であって芯は5大竜ではない。その元は、別の神が柱の神話」
「殆どのものが知らない」
「わたしたちは簒奪された神」
簒奪された神たちはその張り付いたような顔の目が唯一悲しげな感情を見せる。
彼らの気配からは嘘をついている感じはしない。
というよりもまるで私に縋ってきているような……?
そんな感覚は嘘ではないとこの場にいる神たちが私の方へ頼るような目で見る。
うう……これは厄介ごとが増えたね!
「……私をここに招いたのは、もしかして私にその神をどうにかしてほしいんですか?」
「奪われたのは、我らの力不足。しかし、意図的に歪めたのはゆるされぬ」
「これは神と神の戦い、生きとし生けるものを苦しめてはいけない」
「ヤツの力は、生きとし生けるものごと苦しめる」
「近々この国は、ヤツの力で破綻する」
いやいやいや!?
かなり見過ごせない単語が出てきた。
国が神の力で破壊される……?
そんなことが可能なのか……いや。
5大竜ぐらいの力があってそれを反転させるのなら可能?
さっき5大竜の権威すらも利用していると言っていたしできるのかも。
「その神の名前は?」
しかしここで彼らは言葉が詰まる。
目の動きを見るにどうやら知らないらしい。
ここまで危険な行動をとっていて誰にもまともな情報が降りずに行使している……?
「えーっと、じゃあここまででわかっていることは? 1柱の神が簒奪していたこと以外」
「……誰にも、気づかれないからこそ、おそらくは、王都にいる」
「ここへ来るのに各地の神殿近くにポータルがある。神殿の元は神の盲点、一番警戒が緩かった」
「長い間教会が建てられなかったのはニンゲンたちの王都のみ」
王都……まさか道行きも同じになるだなんて。
やっぱりあらゆることが王都中心に行われている。
不可思議だけれどもニンゲンと神両方の面から国が壊されそうになっていてそのどちらも王都にあると。
まだ断定できる情報は少ないが何らかの悪意が王都……特に王宮にあるのは間違いない。
神は大神クラスの力ならば国1つ程度覆せてしまう。
相手によっては蒼竜の応援が必要になることは考えておかないと。
そもそも王都なのに教会が立たないってどういう状態なんだ。
……もしかして王宮と同接して王を神と同一視させている?
うーんありうるな。
「とりあえず、細かいこと聞かせて、みんなのことを」
神たちは自身の事を語っていく……




