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三百八十五生目 医療

 巡回中。

 今度は病のニンゲンがいたのでちゃちゃっと治す。


「ほんと、ありがとう……医者には薬品が勿体ないと断られたばかりで……」


「いえ、あくまでやれることをやっただけですから、完治するには大人しく休んでくださいね」


 目の前にいる貧乏な平民(ヴァイ)はすぐに死ぬわけではないが治療しなくては何が起こるかわからないいわゆる流行りにかかっていた。

 医者は明らかに稼ぎの少ない者たちはすぐに断ってしまうし……

 患者側も自己管理と鍛えが足りなくてとなげき諦める。


 私は彼に対して聖魔法"アンチディジーズ"を使い光魔法"ヒーリング"で一時的に回復させた。

 疾病状態は治せたものの減ったウイルスがぶり返すことはあるから気をつけてほしいものだ。


 彼と別れたあとゴルガの顔を見たら凄まじく渋い顔をしていた……


「お前……なんでもできるな……なんでも引き受けるし……」


「たまたまね。それに、これも治安維持の業務一環だからやることで、普段からやってまわっているわけではありませんよ」


「それにしても、薬にも優先度があるんですね……」


 医療は社会でカバーしなければまったく回らないほどに重要な存在で金がなさそうだから断るというのはかなら困ったこと。

 もちろん払わないのは困るし今回のは私も仕事だからやれた面もある。

 ドラーグはゴルガの前だしはっきり言わなかったが自己鍛錬うんぬん含めてひどいと思ってくれているらしい。


「まあ、やるせなくはあるが……最近医薬品も不足してきているらしい。医者もそいつらに出したらいざ支配貴族(プラドマナ)あたりに言われたら立ち行かなかなるのを考えたんだろうな」


 ただゴルガはここ生まれなので全てに疑問を持っていない。

 医薬品を渡さない方にだけ反応した。

 自己管理と鍛えでどうにかなるのもオカルトチックだがこの国は特に強く信じられている気はする。


「え、医薬品が足りない? こんなに栄えてて帝国とも隣接しているのにですか?」


「なんでも、現在多くの薬品を国の管理にして効率化するために、王都に集めているって噂がある。まあ医者じゃないから詳しくはしらないがな」


 最悪な一極集中だ。


「だったら、医療魔法師が症状の緩和をするとか……」


「そんなに医療魔法師はいないし、いても高額で、なおかつやはり王都に行ってる。俺も近くの診療所が閉まったままで困ってんだ」


「そんなに……」


 いくらなんでも王都への集中がひどい。

 力の強い辺境伯の場所ですらそうならばあらゆる地方は干からびるまで巻き上げられているんじゃあないか。

 そりゃあ隣の領土に対して自国内でギスギスしだす。


 なにせ結果的に奪うほうが効率的になってしまうからね。

 国の基盤になる医療がこの有様だと本当にほかも期待できない……

 あるいはこれで地方の力をそいで王都だけ栄えるようにしている……?


 それならば謀反を徹底的に抑えられる。

 昔からある手だ。


「まあ、だからといってかわりに医者の真似ごとをする警備ギルド員なんざ、お前だけだろう。冒険者では普通なのか?」


「僕も冒険者には詳しくないんですが、少なくとも特別だとは思いますよー」


「だよなあ……」


 巨体ふたりがなぜか意気投合している。

 そんなことしている間にもどうやらとりあえず1周できたらしい。

 また教会前にたどり着いた。


「よし、正直これでもかってほど事件に巻き込まれたが、ペースそのものは悪くない。ここからもう一周しつつ食料補給するぞ」


 ゴルガはこちらをその怖い顔で睨んできたがすぐに目線を外に移す。

 私のせいではないのに……

 だが私も少しして気がついた。


 教会に入ろうとしているのは……ウッダくんだ!

 さらにフィノルド辺境伯が完全におしゃれをキメキメで歩いている。

 周囲には多数のニンゲンたちが守るように配備されていた。


 ウッダくんとちょっと目があったが周りは止まらない。

 ウッダくんは流されるように去っていった。


「領主様だな……うちの領主様がたは、驚くほどに領内のあちこちへ足を伸ばす。かなり大変だろうに、地元の意見や海外の状況もこまめにとられていて、反映してくれているらしい。これは他の土地も知っているからいえるが、領主がそこまで民たちを気にかけてくれるのは、凄く珍しいことだ」


「凄く、慕われているんですね」


「だからこそ、俺はこの街を守りたい」


 ひとりでできることは限られているからこそこうやって様々な形で支えられているっていいよね。

 だからこそそれを意図的に崩そうとするこの国はだめなんだけれど。

 私は口の中に携帯食料を放り込みつつ再度やる気をみなぎらせた。

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