三百八十四生目 騎士
盗っ人を捕まえておばあさんのところまで戻る。
すでにドラーグがおばあさんの元へたどり着き介抱していた。
「なんで……だ……力が……抜けていく……」
「ほら、歩いた!」
盗人への"無敵"は効果てきめんで暴れる気力をなくしているようだ。
ゴルガも歩き追いついてくる。
「ドラーグ、おまたせ」
「ローズ様、おばあさんは無事でした!」
「お前ら……よくもまあここまで手際よく。それにあの速さ、なんてことだ……」
ゴルガはひとりうなっているけどそれはともかく。
ドラーグが回復魔法を使えばおばあさんの擦り傷はおさまる。
この服装……おばあさんは奴隷かな。
「ああ、ありがとうね……はっさっきのひったくり!」
「大丈夫です、拘束してあります」
「クソ……ババア、多分上級労働者だろ……平民様の俺は、お前から取っても文句は言えねえはずだ……!」
上級労働者は平民のひとつ下だっけ。
「そうです……けれどそのお荷物は大事な騎士貴族である主様から預かったもの、誰にもお渡しするわけにはいきませぬ」
「ぶっちゃけ誰のもので誰から奪ったであろうと治安を乱した時点でだめ。さあ、詳しい話は取調室でしてもらおうか」
「……ほう。言うじゃねえか」
「んだぁぁ……くっそぉぉ……」
ゴルガが何かに感心しているがそのあとはかんたんだった。
正規騎士を呼んできてもっていってもらうだけ。
何度もお礼を言われつつおばあさんとわかれる。
ゴルガはその間もチェックし続けていたらしく背後で何も言わず待機していた。
そのあと警備に戻る。
「さっきの、なかなか言えないことだ。よくやったな」
「え? さっきのって?」
「誰であろうと駄目と言ったやつだ。正規兵や騎士すら無視するような階級差利用犯罪はあとをたたない。罪になろうとならなかろうと、それが治安を揺るがすならば許さない。階級が上でも守るもののためならば引くことはあってはならないが、それは蟻と5大竜に同じ言葉を語るが如く、困難だ」
それはまあ私の出自が秘密だからこそできる大技だ。
生まれつきここで生まれ育てば普通に染まってしまうだろう。
……あれ? そういうゴルガは?
「あ、ありがとうございます」
「えへへー、あ……もしかして。聞いていなかったのですが、ゴルガさんは海外から?」
「いや、ここの生まれだ。ただ、だからこそ色々見てきた。俺が生まれ、守りたいこの街だからこそ、見つめることになったこともたくさんな」
「へぇー、え、じゃあ失礼ですが階級は?」
「失礼も何も騎士貴族、隠していることじゃあない」
うわお。
結構えらい人だった。
生まれからしても警備ギルドにいる意味はよくわかる。
「もちろん、お前らが支配貴族から保護を受けている外国人というのも聞いている。この街に外国人が来ること自体はそこまで珍しくはない。そこまで流暢な大河王国語なのは驚いたがな」
「そこはなんとか覚えました」
スキルを使ってね!
まあこの世界に生きるものはスキルは自分の力。
それを卑怯と思うことはないらしい。
「さあ、騒動のせいで若干の遅れが出ている。急ぐぞ」
「「はい」」
その後は今度こそ巡回を開始した。
ゴルガは言った。
警備ギルドは何も起こらないことを喜ぶ仕事だと。
「くそっ、今日おかしいぞ!」
ひたすら退屈なのに忙しい……
「そっちです、そっち!」
時には命を捨てて誰かを守る仕事だと。
「キャッチ!」
私はそれをジャンプして空中で捕まえ……
安全な位置に着地。
ズザーッと滑り降り立つ。
爪を出して暴れまわるそれをしっかり抱いておく。
大丈夫こちらの毛皮を貫けない。
あと"無敵"でおとなしくさせて。
「はい、猫捕まえましたよ。今度は離さないでね」
「ありがとー」
女の子にいる家の猫が逃げてしまったとのことで追いかけていた。
いやあ……事件が多い。
目の前で起こることと起こったあとにあれこれ言われて急いだのと合わさり大変だった。
なんだ。
警備ギルドってかなり業務あるね。
「お前らー!」
そう思っていたらゴルガが半ば息を切らして怒ってきた。
ゴルガが1番足が遅くやってきた。
「はぁ……事件が……起き過ぎだ……はぁ……!」
「それは私達のせいではないですから……」
「そうですよね、こんなことコントロールできないです」
「なんでも首を突っ込みすぎだってことだ!」
そんなこと言われても向こうからガンガンやってくるものを処理しきれないよ。
その後も揉めつつも巡回する……