三百八十二生目 昇格
アノニマルース。
ドラーグはいきなり修羅場だった。
「パパ、その女、誰……?」
「うわあ!? クワァコロロ、その武器と毒をしまってっ!?」
クワァコロロ……一般的にはコロロと呼ばれる少女はドラーグの義娘……というわけではない。
勝手にドラーグのことをパパ呼ばわりしている少女だが元はボロ雑巾のように捨てられていた子ども。
最近健康面も取り戻してきて感情も表面化してきた。
しかしそれには良し悪しがあり今も槍を握りしめそこから少し毒が漏れている……
めちゃくちゃ依存心が剥き出しに。
ドラーグが言うことでやっと収まる。
別にドラーグが資材の子を抱えているわけではないものの話を聞いてたらしく飛んできたのだ。
彼女は今この部屋で……
「はあ、まさかこれを使うのは、ローズが初めじゃないなんて」
「ごめんねホルヴィロス、無理言って使わせてもらって」
「ううん! それはいいよ。ローズは目を離すとすぐどこかにいって疲れて帰ってくるからいっそのこといつでも全回復させられる装置を設けようとしただけで、患者のことは見逃せないよ」
私が大河王国へ行っている間。
我が家にいつの間にか設置されていた大型設備。
それはひとりが縦に収納されるほど太くなっていた半透明な植物の一部。
ウツボカズラみたいな捕虫袋に似ているけれど中が見える上透明な液に包まれた体は保護され癒やされている。
「パパ、とらないなら……ゆるす」
「取るも何もないとは思うよ。ずっと目を覚まさないし……」
「どういう状態なんですか、先生?」
ふんすと怒りを顕にするコロロをみているとドラーグの特徴を思い立たせる。
本人が望む望まないにかかわらず運を与えられる激運。
対処可能な神々の力よりもこわいかもしれない。
ドラーグ歩けばハーレムに当たるというくらい圧倒的なモテ具合。
なおまだ竜のつがいは見つけられていない。
そういう望みとは別に運に恵まれる体質だ。
多分私も知らないところでたくさんの相手と知り会ってやたら好かれているのだろうというのは予想がつく。
そちらはともかくとしてドラーグがホルヴィロスに聞いたのはこの植物内で眠る子についてだ。
「診たところ、肉体は徐々に治っているものの……なんというか……まるで本人に生きる気がないとしか思えない」
「自殺願望とか?」
「というよりなんなんだろう? さっきも彼女の事情を聞いたから予測だけれど、多分思考回路や心がだいぶおかしいんだ。物として廃棄されたから、自分の役目は終わったと信じ切っているかのような感じ……なのかな。さすがに完全な予測はできないよ」
ホルヴィロスには資材のことを話してある。
あの真っ白く塗りつぶされた心を。
それが邪魔をして起きられないような感じらしい。
「じゃあ、二度と目覚めることは……」
「いいや」
ホルヴィロスは目に挑戦的な光を宿す。
「力技で心を塗り替えられたなら、医学の力で自然な色を取り戻す。挑戦をしてみるよ」
「そんなことができるんですか!?」
「やれそうなのに、やらなきゃドクターじゃない」
「わかった、この子はホルヴィロスに託すよ」
「うん!! ローズに任されちゃったらもう敵無し!!」
ホルヴィロスの受け答え私とドラーグでのテンション差がすごい……
せっかくシリアスだったのに。
とりあえずやる気になってくれたようで良かった。
「ふふ、パパは誰にも……渡さない……」
私達は大河王国の街へと戻り日をまたいで……
2日目。
今日の依頼はっと。
「あ、来られた……ローズさん、ドラーグさん」
「「はい?」」
依頼を見ようとしたら受付さんに声をかけられた。
ドラーグと共に依頼掲示板から離れ受付へ向かう。
「おふたりに、Bマイナスまでの昇格試験依頼が届いています」
「えっ、昨日の今日ですよ?」
「ギルドマスターからのものなので、正式なものです。先日はたくさんの警備活動記録が上がっていますし、早めに上がるのはありえるかと。犯罪者集団捕縛、街からの好評、厄介な魔物たちの撃退、あとなぜか不良グループから感謝も届いていますから、初期段階の今では楽々基準値ですね。依頼もランクフリー形式でしたから特に!」
ギルドマスターが気を利かせてくれたのかな……
上げられた多数のことよりも人命救助がないことがひしひしと私達の心に響く。
あれは単なる不法投棄者を絞る行動でごみ拾いでしかないとされている……
「ええと……それじゃあ依頼の方は……」
「監督係をつけての教会近辺地区警備となります。実は、領主様が来賓なさるらしく、当日は多くの警備強化が求められます。そのため、ここで警備やって治安向上に務めてください。護衛自体は別の者がつきます」
あ……フィノルド辺境伯くるんだ。
ウッダくん関係かな。




