三百八十生目 引上
ドラーグはそんなに泳ぐイメージはない。
大丈夫かとおもったが……
そこは見事なまでにきれいな犬かき。
犬かき泳ぎを人間はともかく獣ならば馬鹿にできない。
かなり安定して速度を出しつつ移動できる。
すぐに目的の場所までたどり着き潜りだす。
それにしても不可思議な光景だ。
これほどまでに私達は慌てているのに……
橋の上含めて周囲が誰も慌てていない。
パニックになって飛び込まれるよりもマシだがそもそもの話興味を持たれていない。
なんだろう……不気味だ。
『対象の生命維持力著しく低下中。治療準備を推薦』
『うんッ』
ドラーグが助けに行く間私がやれること。
それは引き上げたニンゲンを救助することだ。
寝かせる場所を早急に作り出す。
土魔法"ストーンウォール"!
壁をせり出した後……
剣ゼロエネミー!
私の腕で持って一刀!
わざと下部をもろくしておいたのでかんたんに切れる。
すると当然そのまま倒れるので安易ベッドの完成。
少なくとも石がゴロゴロする地べたよりずっと良い。
そのまま回復魔法を用意して待機。
「ぷはあっ!」
ドラーグが水面から上がってきた!
誰かを抱きかかえている。
ぐったりしているようで芳しくない。
こちらへ泳いで来ようとしているものの片手がふさがって速度が大きくダウン。
急いでこちらにこさせよう。
銃ビーストセージを腕にそうよう引いて構える。
見えないようにイバラを通し……
行動力を拡散させる。
そして光を無駄発生させた。
この行為は本来フェイントのために使われる。
戦いのさなか行動力の動きはそのまま危険度に直結するからこれでフェイントをかけ揺さぶるために使うが……
今は単純に武技を使ったかのように見せかける!
銃の先から細めの棘なしイバラが飛び出す。
実際は射出していないのだが見えるはずだ。
本物としてはだいぶおかしいが武技としてならば違和感がない。
射出したトゲなしイバラはドラーグの元まで飛んで……
「ドラーグ、腕に! そして掴んで!」
「わかりましたっ」
ドラーグがイバラに腕を沿わして巻きつければあとは私がしっかり巻く。
遠目からすればドラーグが腕へ必死に巻いているようにしか見えないはず。
そのままドラーグがしっかり掴んで腕を引き寄せたのをチェック。
「そーれッ!」
「わ、うわわわわっ!?」
ドラーグを1本釣り!
体勢的には腰を落として身体をひねり引っ張り上げたが……
実際のところはイバラをしまう力で引っ張る。
巻き取りのイメージだ。
ドラーグは勢いよく大河から飛び出してそのままこっちまで引き抜く。
陸まできれいに飛ばして降りた。
「おっとと」
「なんだ!?」
「すげえ、巨体が釣り上げられている!」
「あの身体どこに力が……?」
周囲がざわめきだつ。
いやここで!?
落ちた時点でざわめこうよざわめくなら!
ドラーグがすぐ近くまで来たので追加で術を発動する。
光神術……"ダーク"。
光を通さない暗幕が広がる……
そしてうまいやり方というのをちゃんと覚えた。
中だけ"ダーク"範囲外にしたあと光神術"ライト"を浮かべる。
そうすると外部からは見えない空間が生まれた。
外がざわついているが気にしない。
それと"ダーク"って光という波を抑える効果があると最近解釈できるようになってきた。
術は魔法と系統は違うけれどしっかり究明されている分野で……
同時に謎が深い。
それもそうだ。
術は神の力を誰でも扱えるように格オチさせたものだから。
使う相手によってはクセが強すぎて振り回されるらしい。
それはともかくドラーグが運んできたニンゲンだ。
臨時机の上に寝かされる。
見た目はオンボロを着た少女。
成人はしていなさそう……いや。
そういえばこの国は15で成人か。
ならギリギリ成人しているとみなされるぐらい。
息は見た限り止まっている。
「ノーツ、まだ生きているよね?」
「生体バイタル限界まで低下。低体温、無呼吸、脈拍観測不可」
"見透す眼"で心臓を見たら動いていないわけではない。
しかし多分弱すぎるのだ。
やはり第一の原因は酸素不足……肺の水を出さないと。
ただ当然そのまま吐かせたら吐瀉物による気道の塞がりが起こる。
使う魔法は……
「ドラーグ、これで身体を拭いて!」
「はいっ」
ドラーグに亜空間から出したタオルを投げつつ生活魔法を唱える。
かんたんに詠唱できる火力のない普段使いの魔法。
強烈な温風を光の球体から発生させ当てた。