三百七十七生目 自由
対面には警備ギルドのこの街にいるギルドマスター。
当たり前だがギルドマスターが新人に対して会うなんてほとんどない。
一体?
「まずはこちら、お預かりしたものを返させてもらいます」
「はい」
ギルドマスターから直々に冒険者証明書が返ってきた。
え? なんで?
ギルドマスターの顔や声色からは良い悪いの判別がつかない。
においが薄いことに鑑みると平常心を保っている。
不動のどっしりとした心持ちといえば良いか。
心が一切漏れないの実はちょっと苦手なタイプ。
"見透す眼"での感情機微読みは敵対していない限り結構失礼なのでやらない。
資材にはあまりにも不自然さを感じて軽く使ってしまったのだ。
あれはバレていればすごく失礼。
バレはしなかったけれど。
「ローズオーラさん、ランクTプラス、
この時点で驚愕でしたが……まさか[自由]付きとは。初めて見ましたよ、実在するとは思いませんでした」
「自由、つき……? なんなんだろう……?」
「えっ、ローズさんもわからないのですか?」
全然知らない。
ランクTがTプラスになったのはめでたいが自由なるものはしらない。
「出来うる限り増長しないように、なおかつもしものときの助けになるようにしてあったのかも知れませんね。これは、重要なプロテクトがかけられていて私のようなギルドマスタークラスでなければ解けない文面にされていました。その意志を尊重するために、自由の称号持ちに関する多くの権利は伏せさせてもらいますが、少しだけ触れれば、貴女はどの国の法にも縛られることはありません。国際的に冒険者ギルドが貴女の身元を保証し、貴女が価値を示す限り守られます」
「……えっ!? それで少し!?」
いきなりいろんなものが壊れそうな話が飛んできた。
「あくまで無法ではなく抗争のほうです。例えば貴女が貴族をぶん殴ったとします。通常であればとりあえず死刑です」
とりあえずで殺されるのめちゃくちゃ恐いんですが。
「しかし、貴女が貴族をぶん殴ったことにより、その貴族が隠蔽していた悪徳が暴かれるのならば別です。貴女は冒険者ギルドにより国を超えて保証され、貴女は讃えられはすれど、殺されることはありません。その国の法律がどうであろうと」
「でも……それはかなりの破格ですね。条件さえクリアすれば処刑すら跳ね除けられると。それで少しなのか……」
「なんだがすごいですねローズ様! これ、場合によってはすごい切り札になりますよ」
今回の依頼が1番怖いのは私が辺境伯たちとラインを切られることだった。
これならば安心して動ける。
ドラーグもワクワクして拳を握り固めた。
「この称号、話にはありましたが実在するとは思いませんでしたよ。もしかして、世界でも救いましたか?」
「あ、ええと………ッス……まあ、一応」
私は目を泳がせてしまった。
ごまかそうというよりも果たしてあれは私の力といっていいのか悩んだ。
かなりたくさんの力を使い勇者グレンくんの力によって世界は救われた。
私1匹の功績は随分と少ない。
むねを張って言うのも失礼だが嘘を言うのも違う。
「そうですね! ローズさんは張り切ってくれましたよ。ほぼ決めてだと言っても過言ではないくらいに」
「……まさか言ってみただけなのに、本当に世界を救ったと認められているとは。深く聞くと恐ろしいので聞きはしませんが、この称号の理由はありそうですね。それに……」
なんというかドラーグの持ち上げもつらいし変に否定しづらい。
更に何かありそうだし……
「えっ、まだ何か?」
「帝国と皇国の印がありますね。どちらもかなり立派なものが隠されて……2国から身元を保証されるとか、どのような功績を……いえやめておきましょう」
なんだか深読みされてしまった。
というか私の知らない間にそんなものも……
変に持ち上げられるの困るんだけれど。
まあ全部伏せた情報なのだけはありがたい。
おおっぴらに言い回るには恥ずかしすぎる。
それだけ期待してくれているのだけはありがたい……
「とまあ、察せれるだけでとんでもない経歴を持つ方が、なぜうちに? と思いまして」
「あー……冒険者ギルドは大河王国では潰されているのをご存知でしょうか」
「ええ。反王政武力組織と化しているとタレコミがあったあと、あれよあれよというまに。現場はともかく上層部的には冒険者ギルドはこちらの現場員たちを引き締めるにもってこいのライバルだったんですがね」
うわあそんな理由で潰されていたんだ。
そのタレコミ自体も怪しいものだ。
「でまあ、私の身分はこのままだと表に出して納得されるものがないので……ちゃんとしたものを作り、街をちゃんと知りたいのです」
まあここはうそをつく必要もないかな。