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三百七十六生目 体格

 警備ギルド内でもいかにも警備していますという感じのニンゲンに話しかけられた。

 めちゃくちゃゴリラっぽい。

 言わないけれど。


「どうしました?」


「どうしたもこうしたもない。依頼をしに来たのならともかく、警備員になるのは無理だ冒険者。周りを見てみろ、もしものときに盾となる危険な職だ。体格に恵まれ、磨きぬいた骨肉を持ってしても死ぬ者は多い。もしもの時には命を捨てて依頼主に仕える覚悟もないだろう。その細い身体と、小ささ、さらには貧相な防具とかつ女では、無駄に死にゆくだけだ。女子(おんなご)がそんな風に身を危険に晒す仕事をするんじゃない」


 うーんこの世界でもたまにあるんだよね……

 というより本来はこっちがよくあることなのかな。

 つまり肉体の外見イコール強さの扱い。


 確かに普通に考えれば強くなればなるほど肉体の外見も凄くなっていくだろう。

 あんまり私は昔から変わらないけれど。

 

 女性だからどうのこうのは風土や宗教によるものか。

 ここは紳士淑女という考えがあったからそこらへんが良くも悪くもあるのかな。

 私がまあ小さいのは認める。


「うーん、まあとりあえずやってみたいだけだからね」


「それに冒険者というのも無理だ。冒険者はこれまで何人もこちらに逃げ込んできたが、誰一人続いていない。半日同じ場所に立ち続けたりあるき続けるのを何日も繰り返し、最終的に何もなかったことを喜ぶ、そういう職だ。多少腕が良いだけでは、絶対にうまくいかない」


「それはごもっともですね。だから私自身で確かめてみたいんですよ、色々と」


 本当はこの国で使える身分と職それに仕事をするという内側から見た国の様子までみたい。

 ただそれを言うとややこしさが増して揉めかねないので困る。


「はぁー……頼むから、まわりの邪魔になる前に辞めてくれよ」


 説得のための手札がつきかけているのか彼はため息をこぼす。

 それにしてもあらゆる方向の心配をここまでされるのは久々だ。

 基本的に周りも初めての相手もこちらの実力を信じている。


 そして身体の心配はしてはくれるがそれを理由に止めさせようとするほどこちらがヤワではないと信じているから。


「ゴルガに詰め寄られてるのに一歩も引かない……」

「踏み込むバカはいたが、不動は初めて見た」

「怖くないのか……?」


 そういえばそうか。

 身長190センチに詰められれば誰だって威圧されカウンターから引いてしまう。

 私普段からもっとデカくておぞましい相手とも対峙しているせいで自然体だった。


 そのとき表の扉が開かれる。


「どうしましたー?」

 

 さすがにタイミングがタイミングだから目立つ。

 若々しく軽い声が場違いに響き視線を集めるのは……全身を覆う男。

 というかドラーグ。


 場が感嘆符でざわめく。

 先程までゴルガという名前らしい目の前の男性に対しても周りは一定の評価をしていた。

 今度は190センチを超えて2メートル超え。


 私が失格点ならドラーグの見た目は合格点だろう。

 実際さっきまでは比較的落ち着いた雰囲気のギルド内がざわつきだしだ。

 これが見た目の差……!


 ドラーグはゴルガを挟んで私の近くへ来る。


「ああドラーグ、良いところに。ちょっとまだなれるかわからなくてね」


「知りあいか……?」


 ゴルガは素直に身をひいて道をあける。

 私の時と全然違う!

 理解はできるが納得はできない。


 まあとりあえずどいてくれたから良しとしよう。


「まあね。ドラーグ、ローズクオーツは?」


「外でちょっと待っているそうですよ」


 まあローズクオーツ自体離れてはいないっぽいから大丈夫か。

 

「……そいつと一緒なら、警備ギルドに入ってもなんとかなるだろうさ」


 ドラーグはゴルガの言葉に「?」を頭に浮かべているがゴルガは去っていく。

 まあドラーグと一緒ならば安心というのは私も同意見だ。

 見た目で判断される要素以外でも。


 そして受付さんもこのタイミングで帰ってきた。


「お待たせしました、手続きをしたいので裏の方で……何かありました?」


「いえ、大丈夫です、行きましょう」


 なんなら"無敵"を使って切り抜けようかなと思っていたから良かった。

 スキルはバレた時が応酬になりかねない。








 手続きに裏へ? と思ってドラーグと共に連れられてきたら先にひとり待っていた。

 明らかにここの偉いヒトだろうという服装と威厳。


「こんにちは、ここのギルドマスターをやらせてもらっています」


「ギルドマスターさん……? 一体なぜ」


 やはりというかなんというかギルドマスターだった。

 ギルドマスターはたっぷりたくわえたヒゲを触りながらこちらに着席を促す。

 私とドラーグは共に椅子へと座って対面状態になった。

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