百四十二生目 赤蛇
まさかアヅキの質問がただのズッコケ案件では無かったとは――
そのことに気づく少し前。
「オス? メス?」
「そうだ、お前たちはオスなのか、メスなのかまるでわからん」
「ええっと……」
私は元気な方がオスで念話的なものが使えるほうがメスだと思っているがアヅキは違うのかな。
ドラーグも似たような心境らしくて困ったような雰囲気を漂わせている。
「……ああ! 他の種族のオスメスってわかれてたね!」
「そう言えば聞いたことがあります」
「それってどういう……?」
妖精たちは何やら納得した様子だった。
話がよくわからなくなってきた。
困惑しているとアヅキが話してくれた。
「私は相手の性別が殆どの生物でわかるのです。しかし彼らはどうもいまいちどっちつかずだったので、魔法で何か隠蔽しているのかと勘ぐったのですが、少し違ったようですね」
「あー、そういえばアヅキは種族的に分かるんだっけ」
「はい」
アヅキは種族的に男の子を誰であれ見分けて好む力がある。
私達がなんとなく常識的に判断しているのとは違いアヅキは本質的かつ本能的に見抜く。
それなのに見極められないとしたら?
それが今の質問だった。
「私たちはみなさんの言うオスやメスには分かれていないのです。雌雄同体と言うものですね」
「両性ってやつだな! ボクらは違いとかはよくわからないけれどね!」
「なるほど」
まあ勝手に脳内変換していただけで確かに彼らは自己を表すときは英語で言う『I』、つまり私のみを使っていた。
本来は『私』扱いの子も『ボク』扱いの子も逆でも正しいわけか。
これにはドラーグも意外そうだった。
「それならばそれで良い。欺いて主に迷惑をかけねば問題ない」
「そんなことしないって!」
「ええ、ウソはついていないって誓います」
アヅキは私のために不安の芽を潰してくれたようだ。
ただどことなく残念そうにも見えた。
そうか、両性は彼の範囲外か。
情報交換もほどほどに私たちはやることを再びチェックし作戦をたてていく。
「彼らの縄張りはちょうどさっきの戦いがあった場所を中心に半々に別れているんだよ!」
「なので片側が何らかの原因で倒れたら情報がすぐに伝わって攻め込むでしょうね……」
「そうなったら……ブルル」
妖精やドラーグが危惧する通り、縄張りが対面しているということはもしもの時は片側がもう片側にながれこむということ。
多数の血を見ることになるだろう。
それは避けたい。
「具体的にはどのぐらいの早さで伝わりそう?」
「……半日も、あれば。良く見てもそれで悪く言えば数時間あればそれぞれが勝手に攻撃しに行くかも知れません」
「出来る限り連続で対処する必要あるな……同時は理想だが、主はひとりだ」
「流石にあんな戦場を作り出す相手に戦力はさけないよネー」
アヅキが言う私の必要性は単純な戦力の他に"無敵"と回復の組み合わせで交渉可能なようにしたりその交渉そのものをやる者を指しているのだろう。
頭数を揃えて敵勢力たちを抑えることは池からみんなを呼んでくればなんとかなりそうだが、リーダーの二匹が聞いたり見たりする限りアヅキあたりでないと命が危ない。
戦力がさけない分やはり2正面衝突は避けたほうが良いだろう。
「詳しい事を調べるにはやはり……ドラーグ、調査を頼める?」
「はい! 新しい力をうまく使います!」
「そのときは近くまでは案内しますね」
ドラーグも万能翻訳機をつけているからこういう時は楽だ。
その後は細かい話をととのえてからそれぞれは休息を取った。
こんにちは、お昼です。
最近はあまり昼に活動していなかったからやけに太陽がまぶしい。
こんな時間に起きたのは偵察のためだ。
「それじゃあついてきて!」
「いってきまーす」
「いってらっしゃい」
妖精とドラーグをあの地面がえぐれ壊れた戦場跡まで空魔法"ファストトラベル"で送る。
そのあと私は洞窟へ戻って休んだ。
しばらくしたら……
……きた。
1時間ほどあとだろうか、ドラーグが"率いる者"を使う合図。
"以心伝心"だ。
『ローズ様? あ、コレで大丈夫なんですかね』
『うん、聞こえてる』
『近くにつきました、感覚も繋いでください』
"以心伝心"を使えば念話も身体感覚の接続も出来て効率よくドラーグの潜入から情報を得られる。
事前に決めておいたのだ。
五感をつなぐとドラーグを見て感じる光景が私にも流れてきた。
既に近くに妖精たちはいない。
危険だから近場までしか案内してもらっていないからだ。
ドラーグが見渡すのに合わせて送られてくる光景も変わる。
ここは……洞穴近くの木陰なのか。
ドラーグはその中に水のように入り込んで様子をうかがっている。
ひんやりと気持ちいい。
影の中からくっきりと外の様子が見えていてぞろぞろと魔物たちが洞穴に入ったり出たりしている。
特に多いのは蛇系の魔物。
ということはこっちの洞穴は強力な蛇の魔物がいる方か。
それにしても蛇がうじゃうじゃと魔物としているのはかなり不気味。
サイズ差はあるがみなそこそこ大きく伸ばせばニンゲンくらいありそうなやつらも多い。
『では移動しますね』
『頼んだ』
ドラーグが影の中を泳ぐように移動して木陰に影が触れた大きめのヘビの影へと移った。
ヘビはそのまま洞穴に入りこみ影ごとドラーグも勝手に移動する。
暗闇の中を移動し続けどんどん奥へ行くと開けた場所へ出る。
そこには予想通り巨大なヘビがいた。
太さだけでも私が乗れそうなのにそれがとぐろを巻いている……
赤焼け色の鱗は力強さを感じさせる。
尾の先が二つに別れていて石みたいなものがそれぞれの先についていた。
[ヤマガフガLv.33 異常化攻撃:猛毒]
[ヤマガフガ 強力な出血毒を毒性の持つ餌から蓄える。そのため毒を持つカエルなどが主食]
ドラーグを通した視界でもしっかり"観察"が使える。
情報収集に役立てれるね!
[観察 +レベル]
おや?
"観察"のレベルが7になった。
今回は……一部詳細が見られるようになったようだ。
[塵爆のヤマガフガLv.33]
[塵爆 この個体に挑もうとした者が名付けた二つ名。体中から可燃性の塵を排出した後に尾の火打ち石を鳴らして爆発させる]
あ、ニンゲンがつけた二つ名も見られるようになったのか!
これは便利だ。