三百七十四生目 忠誠
ドラーグの指摘はごもっともでおそらく王宮に一極集中する形に権力構造がなっていて……
逆に他の場所ではとにかく力を削がせている。
やり方は様々だがちょっとでも他に武力が集まることを恐れているかのようだ。
ドラーグは少し見聞きしただけでそこまで思考がいけるのだからすごい。
今買い食いして覆った布の下からモリモリ食べているのと同一存在だとは思えない。
「記録取得中。装着者ローズオーラ、対象ドラーグへフォーカスを合わせてください」
「うん? こう?」
私が片眼鏡の視界をドラーグとかぶらせる。
するとAR合成技術で右目側の視界が変わっていき……
緑がかった景色で食事にだけ四角くロックオンみたいなエフェクトがでる。
ちなみに光ではなく仮想的な絵だ。
ロックオンされたお肉は強調して表示され細かく文字が出てくる。
ちょっと早すぎて読むのはきついし何が書いてあるか複雑だな……
そして。
「解析完了。レシピ情報を登録」
「えっ!? そんなこともできるんですか!?」
ドラーグが驚いているが私も驚いている。
英字に近い国の言葉でコンプリートと書かれ緑がかった部分は消えた。
視界が確保される。
「わたしは食事を取ることは出来ません。しかし、食事のデータを収集し擬似的に楽しむことはしています」
「擬似的に食事を……?」
「味という感覚や食感やその本能はありません。しかし、それを楽しむ者たちがいることをわたしは過去に取得。そこから成分と材料を割り出し、数字を割り出し、蓄積中のデータから食事をする彼らの感情を復元、再現してみようという試み。完全な個人プロジェクトのため、命令が出ればいつでも削除可能。削除しますか?」
「い、いやいや!? 消さなくていいよ! ただ、そんな趣味をノーツが持っていただなんて驚いただけで」
「趣味。そのような捉え方も確かに。わたしは自らの権能を使えるだけ使った場合に、わたしに出来ないことをどれだけできるようになるか、その先に興味があったのかもしれません」
「ノーツ? そんな曖昧な言い回しだなんて、かなり珍しいですね……」
ローズクオーツが言うくらいだしよほどだろう。
一緒にうまれたため一緒にいる時間が長いしね。
「曖昧な表現しか出来ないものを、感情の電気信号だと学習済」
「感情……曖昧な表現しかできないもの……わたくしは……」
ローズクオーツはノーツの知性に考えさせられている。
私は驚いた。
知性が高くなるということは感情に富むということと聞くけれどここまで。
きっと私の……造り手の記憶がそのままなのが大きいのだろう。
けれどそれだけならある程度のゴーレムたちとも同じような?
確かに私は死霊術師としてカムラさんみたいな実験的な自由意志を持つアンデッドの作り方を聞いていたしやれると良いなとは思っていたが。
それと記憶容量が膨大なのも良い点かもしれない。
普通のゴーレム系はそこまで記憶に力を割いていないけれどノーツやローズクオーツは見る限りちゃんとある。
ちゃんと日常の記憶を忘れる処理もされているようだ。
機械というのはこの忘れるという処理が苦手で結果的に取捨選択ができない。
そこは魔法世界に感謝だ。
機械科学で再現しようとすると恐ろしく面倒になる。
とにもかくにもかなりノーツが育ってきてくれてうれしい。
ローズクオーツはニンゲンからゴーレムになってここから悩む時期だ。
ローズクオーツなりの考え基盤を持ってほしい。
……たとえこの日常の中に下位階級を虐げ殺すというものが組み込まれたいびつな社会を糧にしても。
「あ、付きましたよ。ここみたいですねモグモグ」
ドラーグが指した先には警備ギルドが。
ドラーグはまだたくさん買った肉料理を食べている。
そしてローズクオーツはこっちの声が聞こえていないくらい考え込んでいた。
少し悩ませすぎたかな?
でもローズクオーツはこの先も考えながら生きてもらわないといけない。
私に対してただ何も考えず従い続けていたらきっとローズクオーツは単なるモノになる……
そんな直感だけはたしかにあった。
ここの資材たちとはまた違う形で。
……アヅキ? あれは違う。
単に忠義心がおかしいだけで普段から自由にしている。
自由にした結果誰かに付き従うのと付き従うようにされたために付き従うのではだいぶ違う。
アヅキは元部下だけど今はそういうわけでもないし。
「それじゃあ、私とノーツで先に行くから、ドラーグはローズクオーツを見つつ食べ終えちゃって」
「わかりました!」
「……うーん……」
警備ギルドは建物の造りが明らかに冒険者ギルドとは違う。
立派……というのも少し違うかな。
まるで街中に要塞がいきなり立っているかのようだ。
おそらくわざとイメージづけるための無骨な雰囲気。




