三百七十二生目 召喚
大河王国では魔法の契約書をわりと使うみたいな雰囲気を感じた。
ルイスマーラの態度やすぐ用意できたこと。
それに言っちゃあ悪いが数万円の買い物と雇用書ごときにポンと使うあたりがガチの権力者という感覚を得る。
もちろん権力者なのはそれはそうなのだけどそれ以上に貴族の義務を守ろうという気概がすごい。
相手を縛るものではなく対等に立つための書類だから凄まじい。
奴隷は権利を売る以上扱いはモノか家畜ぐらいだがルイスマーラは相手をニンゲン扱いするようだ。
まあ彼女もかなり思うところはあるようだし……
国としても世界としてもまだかなり思想は先鋭的。
ちゃんと周りがカバーしてくれるからこそ立ち回れているのかも。
「え……? え? ちょ、ちょっと、待ってくれよ、ブラドマナ・ルイスマーラ様! この給金だとほぼほぼ1月で全額おれの権利代金支払いおえちまうけど!?」
「何か問題がありましたか? そこに書いてある通り、過酷と考えられる作業をしつつも、ファーエン家に相応しい教養を身に着けてもらいますからね。拒否権はありません。1月後さらに働くかどうかはアナタの判断に任せます」
「ええ……? こんな好条件、マジか……夢みたいだ……」
「うーん……私としては複雑だけれどね。買われるヒトが喜ぶ、というのは」
「魔物? らしいローズが言うのは変な気分だな。おれはこれでいいんだよ」
うーん……社会の違いがどうも重いなあ。
人身売買は本当に良くないんだけれどね。
それを買われる側にいっても仕方ないし買う側は今回その面は信頼できているので言う必要がない。
あ。そういえば。
「こうなったら別にウッダくんに見せても大丈夫なんだよね」
「はい、どうぞ」
「……え? 何を?」
私は胸の服装をいじる。
ここを少し外して……インナーを下げて……
「えっ、ちょっ、まっ、不浄だって、不浄!」
「え? 何が?」
「不浄……おおー!?」
なんの話かわからない間に私は服をはだけさせた。
普段はしっかり隠している胸の石が顕になる。
明らかに目立つ。
額の目も開きたてがみを少しいじれば……っと。
私が魔物としての姿が明らかになった。
魔物とニンゲンが実は同軸上の存在だから希少ニンゲンのことを言われたらなんとも言えないが少なくとも異様な雰囲気は伝わるはず。
「ま、魔物……」
「まあ、私が魔物でも外国人でも冒険者でも平民でも貴族の保護があっても大してかわらない、私は私だよ」
ウッダくんは息を飲んでうなずく。
それだけでなんとなく伝わった。
「それでは、詳しい話は外で詰めましょうか」
ルイスマーラが先陣をきって外への扉を開いた。
その日は結果的に契約書の内容詰めに時間をとられた。
ルイスマーラが提案し私が直しつつ内容を詰める。
そしてウッダくんが複雑さに頭を悩まして平坦な言葉に翻訳しつつ納得できるまで詰めた。
ウッダくんはすぐ折れて通そうとするしルイスマーラは本当にヒトを買ったことがないらしく文献やメイドさんたちとたくさんやり取りするはめに。
こだわりにこだわった文章は恐ろしく分かりにくい貴族文脈で紙束と化したのは言うまでもなく。
なんというか精神的な疲労が凄まじかった……
翌日。
とりあえずルイスマーラさんは孤児院の神父さんの呼びつけるらしく今日は忙しい。
ウッダくんを買うためだ。
そしてアール・グレイはおそらく3日以内に帰ってくるとのこと。
それまでは私の活動はここの街にいること。
すごくまずいけれど。
なにせ冒険者ギルドがない。
他のギルドは私が関わりなさすぎる。
1つの分野に強いものも他の分野では素人。
あーでも警備ギルドならば良いかもしれない。
警備ギルドとはよく冒険者ギルドと依頼を取り合う中のひとり。
警備ギルドはその名の通り様々な警備を担当するが冒険者ギルドも警護を請け負う。
違いとして冒険者ギルドのほうが比較的軽く一時的なものが中心。
特に要人警護となると警備ギルドの十八番だ。
なぜなら冒険者ギルドは負けると判断したときに物を捨てて命だけ守って下がるが警備ギルドは命を捨てて要警備対象を守り抜く。
まあ行くにしてもまずは全員呼ぼう。
辺境伯の館にあるただっぴろい庭を借りる。
空魔法"サモンアーリー"。
召喚!
ノーツ! ローズクオーツ! そしてドラーグ!
「召喚完了。命令待機モードに移行します」
「ああ、こんにちはドラーグさん、直接は初めてでしたね。わたくしローズオーラ様のゴーレム、ローズクオーツです。こちらは同じくノーツ」
「あ、ご丁寧にどうも。ローズ様に拾われたドラーグです」
みんな丁寧に挨拶しだした……