三百七十一生目 契約
話を細かく聞いて……
ルイスマーラは良い答えが聞けたといつもよりも笑顔だった。
「期待以上の話が聞けました」
「私だけの意見で大丈夫でしたかね……?」
「もともとたくさんデータを集めていたので、後は最後直接感情ののった話が聞きたかったのです。良いにしても、悪いにしても。特にローズオーラ様はなかなかみないほどに高度な考えを持っています。人よりも人のことを考える魔物ですね」
「……えっ!?」
は、
「ちょっ、ローズって人ですらないの!? えっ、でも魔物って、普通に街の結界内に、しかも話しができて……え!?」
いきなりルイスマーラさんは何を言い出すんだ。
ウッダくんは驚いてまた固まりかけているし。
ぶっちゃけ私も固まりかけている。
「いえ、ここまで話しておいて隠す必要もないと思ったので」
「で、でもそうしたら彼から情報があれこれ漏れてしまう可能性が……」
「ああ、そんなことを気にしていたのですね。大丈夫ですよ。なぜなら奴隷に対して使える口封じの手段……それがあるのですから」
なんだか不穏な空気になってきた。
確かに彼は安易にここへ引き入れ話を聞いたから不安になったが……
何をする気なんだろう。
別にここへ限った話ではなく貴族は平民以下に対して犬ほどの情もわかないことが多い。
だから何かあったら私が庇わないと……
ウッダくんも何をされるかわからないのか震えている。
「な……なにを……や……やめてくれ……おれはまだ生きたいから……い、言わないから、おれが領主様の屋敷に来たこと含めて……全部! なあ!」
「うん? 何を勘違いなさっているかはわかりませんが……これです」
ルイスマーラがピラリと1枚の紙を取り出す。
書かれているのは……ええと。
「ど、奴隷購入契約……!?」
「さきほど合流するのに少し時間がかかったのは、これを取りに行かせていたのです」
そこにはまだ多くのことは未記入のままにされていた。
いわゆる定形文のところだけ少し埋まっている。
細かな日付ややりとりそれに4人の生まれとフルネームを書く欄。
わりとガッチリとしたいわゆる本物だ。
「ん? どれいこうにゅー……おれ!? そんな、領主様の家に奴隷のおれが勤めて出入りするだなんて、そんなことをしたら領主様が周りにどう思われるか! しかもまだ未成年を買うと外聞が良くないって神父様が……」
「それはアナタの考える役目ではありません」
うーむピシャリと言い切ったな。
ここまで言い切られるといっそ清々しい。
「うっ」
「アナタが考えるのは、果たしてこれが不正な書類ではないか、不正な取引が行われていないか、不正な給金額ではないか、自身のアピールをして自分の給金を上げれないか、そういうことです。多分まだ15までには時間があるので、そういうことを学んではないのですね」
「それは! ……そう。何も言い返せねえ……」
うーむストレートノックアウト。
私も変に口を挟めなくなってしまった。
あ……でも。
「ちょっと待ってください。彼を買うのにはお金が……それと、別に奴隷になったからといって口を封じれるとは」
「口封じに関しては問題ありません。これは魔力を介して行われる契約書、本人の意志に拘らず言動を縛れますから。割と長いので今目を通してください。読めますか?」
「あ、はい、読みます……えーっと……」
「そして金銭に関しては問題ありません。市場で人の価格は見てもらった通り、他国に比べて異様に低いですから。この領主官邸運営費用にかすり傷すらつきません」
「ああ、うん……4万円とか10万円とか……」
もちろんここは現地の価格で話している。
そうだった。
目の前の人国内で貴族の中でも指折りに入るぐらい立場が高い人だった。
4万円と400万円を誤差という認識かもしれないくらい金持ちだった。
それにしても契約書にそんな力が……歴史的に重要だからたくさんあるんだろうな。
皇国や帝国でもそういう紙はあるのは知っているがぶっちゃけそんなにつかっていない。
便利だけれど不便で高いからね。
魔法の契約書は融通がきかない。
つまり書く内容は数値かはいといいえで割り切れるものでなければ勝手に無効化される。
今回の件で言えば[隠し部屋で見聞きしたコト]では駄目だ。
いちいち可能性のある単語や文脈をすべて指定する必要がある。
今の話をしながらまとめるのは不可能だからそこに関して追加文書がウッダくんにだけ回されるはず。
さらに契約書は上と下を定めない。
例えば今回の場合うっかり指定日までに給金を支払い忘れたりなんらかの金欠で1円でも足りなければ……
とんでもない罰がくだる。
なのでみんな魔法じゃない紙でやりとりする。
そりゃそうだよね。