三百七十生目 階級
ウッダくんが少しおちつくのを待ってから。
話の続きがおこなわれる。
ウッダくんはルイスマーラさんに貸してもらったハンカチで涙を拭っていた。
「そういえば、ここには奴隷や資材はいないようにみえますが……」
「そ、そりゃそうさ……領主様は普通の貴族とは格が違うんだ、館に上級平民すらめったに入れない……もしかして、自分がしたことがどれだけ常識破りだったか、自覚していなかったの……? 外のモンってこええな……」
ウッダくんには呆れられてしまったが常識の違いというのはそういものだからね……
つまり普通の貴族は奴隷はいるけど領主クラスになるともう貴族たちでまとめているわけだ。
「外国の方に分かりづらいとよく言われることですね……では、階級の整理をしましょう。シドラ・ウッダ、ローズオーラ様に説明できますか?」
「あっ! え、ええっ、もちろん。まず階級ってのは大別して2つなんだ。上位階層と下位階層。大体人口が半々……って聞いているよ。下から資材と奴隷、ここからは上でシッデラ、平民、ええと上級平民、ショールドバダー、貴族、王位継承権者、そしてバールだな」
「ん? 知らないのがいくつかあったよ。今の感じだとバールが王族かな?」
「ああ、王様たちだ」
「わからないのは、今まで話に出てこなかったものですね? シドラ・ウッダ、ありがとうございました。十分勉強をしていますね。ここからはワタクシが」
「えへへ……」
「ショールドバダーとは騎士階級になります。常時国や貴族に仕える階級で、この屋敷で働くものも多くはショールドバダーです。平民からすれば彼らも貴族と呼ばれる段階ですね。なのでブラドマナのことを貴族ではなく支配層と呼ぶ事も多いですよ」
なるほどここの執事さんやメイドさんたちはショールドバダーと呼ぶのか。
騎士といっても全員剣がすごいというわけではないはず。
聞いている限り支配層や王族を支える全般という感じ。
なにせ軍事1つとっても前衛より後衛のほうが圧倒的に多い。
ルイスマーラさんはこちらが理解している様子を汲み取り続ける。
「そして上級労働者層や、上級奴隷と呼ばれるのがシッデラですね。奴隷たちを取りまとめる立場ですので彼らは誰かに買われた身ではありません。ただし平民以上と違い、人を買うことは不可能で制約も多いですね。それとこれは全階級ですが、それぞれの生まれごとに成れる職が家によってある程度狭まっています」
「つまり、鍛冶屋の息子は鍛冶屋、宣教師の娘も宣教師、みたいなもんだな。おれの家名も今はオールンだけれど、どこかに買われたら変わるぜ。それは基本的に奴隷だけかな」
「そうですね。教えでは、家業は受け継ぐものとされているので、法的にというよりは風習でほぼ固定になっています。まあ、そこから逃れるのは法よりも難しいのかもしれませんけれど……」
ふーむ……フルネームを名乗るということの重みがどんどん増していく。
調べるところ調べれば属名で地域を家名で仕事を階級名で階級が。
情報が丸裸になりすぎて名乗るのに覚悟がいる。
今まで彼らが自分のフルネームを高らかに叫ぶ意味が曖昧にしかわかっていなかったがこれでわかった。
真正面から覚悟を持って挑むということだったのか。
その後も色々とわからないことや興味を持ったことを聞いていく。
ふたりとも律儀に答えてくれて……
その中でアール・グレイの話になった。
「そういえばグレイさんはあんまりこういった話をしませんね。資材とか冒険者ギルドの崩壊とか……私が冒険者なのは知っているはずなのに」
「この国はちょっと最近困ったことが起きてるけど、みんな良き行いをしてるいい国なんだ。変なことをテロリストが企むからギルドがなくなったんだって、みんな言ってるよ。わりとこんな風に国にも畏れ多い会話するの自体がおかしいんだって。だから、領主様のえーっとごしそく? がそういう感じでもおかしくない」
「そうですね、私達の息子です。あの子は、まだ若い。だからまだまだこの国に対して盲信的な部分もある……けれど、多くの者はグレイよりも染まりきっていて疑問に思わないのです」
「ん?」
今の言葉は私以外にもウッダにも届けたもの。
しかしまさか自分のことだとは思わなかったのか微妙な反応を返すのみだった。
「染まっているといえば……グレイはこの国の言い回しも悪気なくよく使ってしまうのはよく聞きますよね?」
「ええ、多分全員に通じると思って……私はかなりわからないことが多いのですが」
「ええ……今後何か言ったら、ちゃんと聞いてあげてくださいな。場合によってはすれ違いが危険ですからね」
それはそうだ。
失礼にならないお墨付きをもらったから今後はちゃんと細かく聞いていこう。




