三百六十七生目 隷材
私は街に出て自分が感じたままの素直な感想を聞かせてほしいと言われた。
最初は意味がわからなかったが……
今私は上級平民襲われていた奴隷を貴族に執事たちの許諾があるとはいえ勝手にあげてきれいにし医師にかけ食事を与えている。
「ええ、確かに彼をここに連れてきたことが、何よりの感想なのですね……詳しく聞かせてちょうだい、何が街で行われていたのか、ありのままの感情を……」
「わかりました」
私はこれまで見てきたもののおぞましさとにぎやかさそして底を語った。
たとえウッダが腕を斬られかけていたと聞いてもルイスマーラの微笑みは耐えることがない。
とりあえずざっくり話し終えたところで。
「――とまあ、正直な話で言ってしまえばかなり度が過ぎた階級社会だな、と……いくつも聞きたいことはあるのですが、あの資材という人々はなんなのですか?」
「ワタクシたちも深く詳しくはないのですが、王が2代前に制定された身分でして、教えのスキマをつき生まれたそうです。彼らは生まれつき、物になります」
「えっ!? 宗教的な面ですらないんですか! そんな馬鹿な身分作成、絶対革命レベルの反発が起こるはず……」
「それが厄介な点でして……そうですね、シドラ・ウッダも食べ終わったようですし、共に奥へ行きましょうか」
「ップハー! うまっ、じゃなくて美味しかった……! 生き返る思い、で……え?」
ウッダくんを連れてまた知らない場所へ案内される。
どうやらルイスマーラの私室みたいだがルイスマーラが壁へ手をかざすとさらにひと部屋現れる。
どれだけ隠し部屋あるんだこの屋敷。
私達が入ると完全に閉じた。
「ここは高度な隔離空間になっていて、外からは中が、中からは外を観察するのがほぼ不可能。安心してくださいな」
「え、あ、あの、おれ、これから、どうなる……」
「大丈夫大丈夫、何も起こらないから」
密告者は炙りだせたが新たに盗聴されている可能性は高い。
こういうところを選ぶのは当然だろう。
ウッダくんも入れるのは意外だが。
「資材の話でしたね。教えの隙間を突いたとはいいましたが、教えに反しているわけではなく……王として、国として、新たな解釈を示したのです。その時どんな相手が資材に選ばれたのか、はたまたどう鎮圧したのかまではここに資料がありませんが、当然当時の知識層は反論をしたそうです。しかし意外な層の支持が厚くそのまま通され、浸透したそうです」
「意外な層……まさか!」
ルイスマーラが微笑み見たのはウッダ。
それだけでウッダはドキッとしたらしく目が泳ぎ顔が赤くなっていく。
「え、あ、お、おれ……いや、し、奴隷ですか?」
「奴隷はこの国の多くを占め支える労働者たち。そして当時は奴隷たちが最下層でした」
「アイツらは……資材は魂ごと汚れた存在なんだ。誰だって資材たちみたいにはなりたくないって思う。あいつらは学びの機会がないどころか、喋ることすら神に赦されていない存在なんだ。近所のボケたじいちゃんのほうがまだまともなツラしているよ。おれたちはいつも、資材と比べられてああはなりたくないと思ってるよ。資材は知能のない汚らわしいやつらだけどその生を全うして“役にたてば”幸福になんだって、そもそも資材に生まれたのも前世で悪人だったからだ!」
ウッダくんはたどたどしく話していたがだんだんとせき止められていた分がなだれ込むように話す。
その黒目は本気で資材のことを嫌っている……むしろ敵に近いものを見る目をしていた。
「またシドラになるならまだ農業して腹いっぱい食えてけるけど、もしデマジーになんかになったら………みんなデマジーになりたくないからみんな良き行いをしてるんだよ」
「……ウッダくんは、自分より下を見て安心したいの?」
「それは! ……誰だって、少しはあるだろう。それに、それでこの国は回っているみたいなもんさ。ローズオーラ、さっきまでは動揺してて気づかなかったけど、よそ者だよね?」
「うん。そういえばちゃんと自己紹介はしていなかったっけ。私は皇国から来たの。ローズでいいよ」
「こうこく……? うーん、知らないなあ、どこ?」
ずっこけかけた。
し……知られてなかった。
まあちょっと遠いもんね。
「ふふ、奴隷の子に行われる教育は、知識というよりは生きるのに必要な技術という面が大きい故に、そこは致し方ないのです。話を戻し、資材たちの扱いについて感じたことはまだありますか?」
なんとなく見えてきたことはある。
奴隷たちは資材を下に見させることで不満のはけ口にして全体維持しているようだ。
だがこれらはあまりにも……
「……失礼を承知でいいますが、この国は比較ではなくこの国だけを考えても狂っていると思います。上は畏れるためにあり下は虐げるためにある……こんな階級制度はごく一部の者にしか意味はありません」
ルイスマーラは笑顔のままその罵倒とも取れる発言を受け止めた。




