百四十一生目 質問
妖精たちの植物らしい食事を見届けつつ自分たちも食事を終えた。
日が昇ってくる。
太陽が洞窟に射し込んだ。
そろそろアレが来るかな。
「わ、何この気配……?」
「何か巨大なものが近づいてきているようです」
ドシン……ドシン……
と地響きを鳴らしながら洞窟へと近づいてくる気配。
静かにゆったりと規則よく鳴る足音と共に洞窟に顔を覗かせたのはあのけむくじゃらだ。
「ひゃあ!」
「あ、あなたは……!」
妖精2匹は身を寄せ合ってすくみあがりつつも何かを知っている様子。
一方けむくじゃらはこちらを灰や白まじりの長毛の向こうの目が一瞥してきた後に興味なさげに寝転がる。
敵意はない。
前回はこのまま過ごしたが今回はこちらに用がある。
言葉は前回"観察"した時に覚えたから問題ない。
「こんにちは」
「……うん?」
「こんにちは、私はケンハリマのローズオーラと言います」
「……ふむ、能力を組み合わせて我が言語を得たのか」
パッとこの短いやり取りだけでそこまで言い当てたか。
やはり只者ではないらしい。
妖精たちが心配そうに見守る中話を進める。
「……我が名はポロニア。何のようだ?」
「実は今この荒野に大変なことが起こっていまして……」
私は妖精から聞いた話や現場の惨状を語った。
正直彼なら凄く強いから抑えられるのではないか。
「――というわけでぜひ力を貸してもらえませんでしょうか」
「……断る」
即答だ。
うーん気難しそう。
「……興味がない。関与して本来の形を崩す気はない」
「それでもこのままではここら一帯が滅んでしまいます」
「……それが自然の成り行きならば、それもよし」
取り付く島もない。
元々強くは期待してなかったから仕方ないか……
「わかりました。話を聞いてくださりありがとうござい……」
『ポロニア様! どうかまたお力をお貸しください!』
私の言葉はわからなかっただろうが妖精が私の様子を見て頼んで断られたのを察したらしい。
思念のようなものを全方位に飛ばして毛玉に語りかける。
毛玉も念じて返答しているようだがこちらには聞こえない。
毛玉の顔は見えず顔色を伺うことも出来ないが妖精の様子で交渉の様子は分かった。
詰め寄りすがりそして肩を落とす。
わかりやすいほどにあっさり断られたようだ。
毛玉は何を思うのか。
深く閉ざされた心は"読心"でも何も読めなかった。
もはや何もかも疲れ切ったかのような諦めの気配すらもただよっている。
「仕方ないね、何かしてもらいたかったけれど……」
「ポロニア様……昔はあれほど活躍されていたのに……」
妖精に声をかけるとやはり過去を知っていた様子だ。
昔の事を聞こうかどうか迷っている間にもうひとりの妖精が過去を語った。
「だいぶ昔だけれどポロニア様はこの荒野の守り神みたいな存在だったんだ! ある時から姿を消しちゃって、今回のことが始まったときも真っ先に聞きに行ったんだけれどどこを探してもいなかったんだ!」
「そうだったんだ……」
毛玉は既に眠ってしまった。
もう疲れ切っているようなその姿からは老いを感じずにはいられない。
その後アヅキやドラーグも加わってドラーグたちと共に聞きたかった話を聞いてみた。
「そういえばニンゲンとの交流があるんだよね? なんでニンゲンたちに頼まなかったの?」
「ポロニア様に頼れないと分かった後は確かにニンゲンたちを頼ろうとしたんです。ただなぜか知らないのですかまめっきりニンゲンたちが来なくなりまして……」
「迷宮から出て探すのもちょっと危なすぎるし、待っていたんだけれどなー。まるで外の出入り口付近が危険になったみたいにパッタリ」
一瞬タカの顔が浮かんだ。
アイツがそのころから荒野の迷宮入り口付近である山の頂上に獲物を求めてはりこんでいたとしたら……
アイツが原因、ありうる。
「まあそれによくこの荒野にくるニンゲンたちで勝てるかどうかは微妙だしなぁ。ボクたちの方が強いとき多いし!」
「かなり危険ですからそれに見合う報酬を用意出来るかも不安な要素でした」
「まあ、タダ働きはしないよね」
私達もタダ働きはするつもりはないが。
まあ冒険者たちへの報酬……つまり金銭となると魔物では難しい面が多いだろう。
つまり問題だらけだったわけだ。
「そこに私達が登場し藁をもつかむ気持ちで頼んできたと」
「はい、とても助かります」
なるほど私達なんて言う余所者に手を貸すように求めた理由はわかった。
やはり私もハッピー相手もハッピーになるには私たちがどうにかしなくてはならないのか。
どうにかなれば良いのだけれど。
「ええと、他のみんなはどのようにしているんですか?」
「群れのみんなは無事……なのですが」
「まあダメだ、今回の件で土地が傷ついたのかうまく力を吸い出せなくなっているんだよ」
実は捕食は普段は殆どしなくても良いほどには栄養には困らない状態だったらしい。
「怪我をしたり死んだりした仲間はいないものの、みんな活気が無くなってしまって……」
「動く気力も無くなったのも多くてこのままじゃあ固定化するやつも出てきそうだ」
「固定化?」
彼らの種族的な特性だろうか。
「ああ、根をおろして身体をほとんど動かなくするんだ。エネルギーの節約にはなるからな!」
「ええと、みなさんで言うところの睡眠に近いですね。ただこちらのは1回固定化したら次に意識が戻るまでは完全に回復するまで遥か遠い日時がかかるんです」
うーむ、冬眠のような仕組みか。
厳しい時期をエネルギー節約して生き延びるのは手段としてはあり。
ただ今の環境でそれをしてもおそらくは2匹の争いに巻き込まれるだけだろう。
「かなり……大変なんですね」
「正直……はい。かなり困っています」
「ふむ、まあ話を聞いてもらえるだけでも主の好意に感謝してもらおう。
それでだ、私からの質問なんだが……」
ドラーグが共感したのか悲痛そうな面持ちの中でアヅキはいつもの調子。
とか思っていたら質問もあったらしい。
「お前らどちらがオスでどちらがメスだ?」
思わず盛大にズッコケた。