三百六十四生目 歯噛
急いで声のした方に走る。
やがて殴打音は激しく複数に渡っていく。
光を纏ったものになっているようだ。
当たり前だが町中で乱闘はご法度だ。
それはこの国でもさすがにかわらないだろう。
じゃないと色々崩壊するから。
このままこの細い生活路の奥……
っと。
暗がりでニンゲンがすれ違うのも大変なくらいの場所。
そこで3人が1人を囲んでいるのが見えた。
大人たちが子供を囲んでいる。
これはいけない。
「オラッ、防ぐな! 奴隷が反抗していいのは哀れな資材だけだろうが!」
「ううっ、ぐうぅ……!」
「騒ぐなよ……」
2人が囲み1人が逃げないように睨みつけ恫喝している。
襲われている少年は丸くなるようにして攻撃を防ごうとするものの光の乗った攻撃はそれでは難しい。
たびたび軽く吹き飛ばされている。
さらに遠目に見ても武器まで持っているようだ。
血のニオイがするし先程から少年は片腕を抑えている。
「待て!」
「「っ!?」」
もちろんそこを見逃す私ではない。
大声で叫んで注意を引く。
その間に種を潜ませておく。
「なんだ? あまり見ないような顔だな、いい服を着ているが……」
「名乗れ、こちらは全員ヴァイドでそこの雑魚は奴隷だ」
「名前……」
そうだった。
確かこういう時に名乗るものは。
「名前は、ヴァイ・ローズオーラ!」
「ローズオーラ……?」
「ヴァイ!? ハッ、だったら黙ってどっかいきな、俺たちはヴァイド、逆らうとどうなるかお前みたいな女も知ってるだろ?」
「「ハハハ」」
今あの防いでいた少年は私の名前に……
周りのやつらは階級に反応してあざ笑う。
ヴァイドがどこかはわからないがどうやら平民より上らしい。
そして私に背を向けて……
光を纏わせた剣を振り上げた。
「待てと言ったッ」
「なっ!?」
彼の体は動きが止まる。
それもそうだ。
事前に用意しておいた遠隔化させた空魔法"ストレージ"を発動し彼らの上空から剣ゼロエネミーを出した。
そのまま指示を出し振り下ろしに合わせて刃を合わせている。
単純に力負けしていて剣ゼロエネミーは変な角度なのに勝つことが出来ない。
「な!? いつの間にか!?」
「何かわからねえけど、こいつは、ヤバイ!」
「うわああっ!?」
更に剣ゼロエネミーは蛇腹剣と変化し一瞬で相手に這い回り蛇のように拘束する。
水のような剣身が滑らかに伸びて刃を体に沿わせる……
やられた側は凄まじく恐ろしいだろう。
同時に"無敵"の効果を剣ゼロエネミー自体が放っている。
彼の戦意はどんどん削っているだらろうし……
「お、おい! 平民がヴァイドに対してこんなこと……止めろよ、これお前の化け物だろ!」
「剣だよ、そして私としては、大人がよってたかって子供を切り刻むほうが罪深いと思うけれど?」
「はぁ!? 何を非常識な……ぐあっ!?」
そんなこと言っている間にも剣ゼロエネミーは伸びていく。
叫んでいる喉を締め腰が引けている相手を抱きかかえ端的に言えばグルグル巻きにした。
そして直に"無敵"を叩き込む。
恐怖と混乱でスキを見せたのでちょうどよかった。
どんどん戦意を削って結果的に恐怖心を膨れ上がらせよう。
どう考えても彼らは強くない。
剣ゼロエネミーにまかせて大丈夫だ。
私はその間に少年の元へ駆け寄る。
奴隷と呼ばれた少年のもとにそっと寄り添う。
こういう時は風のように素早く。
「見せて」
「っ……? あんた、は……?」
少年の腕を診てみる。
左腕もボロボロだが右腕のほうがひどい。
腕が下手なのかいたぶったのかわからないが少なくともきれいな太刀筋ではない。
腕を何度も切って骨まで達しているのに切り抜けられず筋繊維含めボロボロなのが見て取れる。
通常の外科手術ではリハビリが困難だろう。
まずは光魔法"ヒーリング"を当て続け次の詠唱をする。
「ん……うん……!? 回復、魔法……? そんなの、払えるお金なんて……」
「ほら良いから、これをくわえてて」
「……え?」
少年に亜空間から取り出した小さめの板。
ちょうど口内に入る大きさ。
このサイズで問題なさそう。
意識がなかば朦朧としているのかよくわからずくわえている。
それをちゃんと指を使い奥歯に押し込んで……
これでよし。
聖魔法"トリートメント"。
腕を優しい輝きが覆ってゆき肉体が次々戻っていって……
凄まじい激痛が少年を襲う。
「んんーーーーっ!!」
思いっきり板を噛みしめる。
痛そうだな……でもまあ耐えてくれ……




