三百六十三生目 組合
街の様子をパッと見て思うのは……
奴隷の多さだ。
確かに街の中だからしっかり市民たちもいるが表に見える奴隷の数が半分近くいるかもしれない。
シドラと呼ばれる奴隷たちがこなす作業は多種多様と言った様子で結構技術職すらやっていることもある。
シドラも先程見たような値段で買えているというのは事実らしくひとりの市民が3人も従えているのを見た。
たまに枷のないシドラもいて多分自分で人権を買えたのだろう。
なぜ枷がないのにシドラとわかるかというと服装がツギハギなのと忙しそうにしていればわかる。
そしてシドラたちに混じってたまに凄くニコニコとした枷のないシドラらしくはない何かがいる。
あれが資材と呼ばれたデマジーだろう。
デマジーに話しかける者はいない。
そしてデマジー側も話しかけないのにすごく嬉しそうにしている。
……不気味だ。
"見透す眼"で彼らの心の内を覗いてみるとぞっとする。
普通ニンゲンの心は思考や記憶それに妄想なども入り乱れていて同時にたくさんの障壁がある。
それは自然に確保している自身の防御力であり傷つかないためのもの。
なのでシドラたちだってこれはたくさんある。
免疫みたいなものだからなければおかしい。
まあそれでも読み取ると不平不満や忙しさそれに食事がうまく職場の仲間と楽しくやれているみたいなようはどこにでもある一般的なもの。
しかしデマジーは違う。
彼らの心はどこまで広がるようだった。
そして中身になにもない。
澄み切った心といえば言葉が良いが生き物としての心というよりまるで思考が弱い生物の心。
生まれたての幼児以下の状態。
獣魔物たちは比較的緩いがこれとは方向性がまったく違う。
大人になればちゃんと心は頑丈になる。
純真無垢というのがここまで悪い方向で使われている心は初めてでめまいがした。
純真無垢な心というのはちゃんと怒り悲しみ喜び楽しめる。
しかしこの心は……生まれつきずっと漂白され続けたかのような白さ。
そして溢れる心の内は唯一つ。
ひたすら嬉しく感謝する心。
言葉がなく思考は感情で埋め尽くされている。
知識がなく言葉がなくかわりにあるのは漂白された心。
流石に素人目にもわかる。
洗脳だ。
いわゆる催眠術とか魔法とかで脳の構成をいじったものではない。
彼らの魂と心が徹底的に漂白され服従するように繰り返しくりかえし言葉を使わずおそらくは宗教的に調伏させられている。
彼らは他人に仕えることに対してのみ生きられるようおそらくは幼い頃から……
その影響なのかはわからないが奴隷に比べ資材は全体的にレベルが高い。
この世界はレベルが高くなくちゃ力仕事1つとっても難しいからね。
さっきのわかれていた品質はこのレベル差も大きいのだろう。
一体ただ尽くすためにどれだけ訓練させられたのだろう……
訓練するのは良いことだが幼い頃から強制的にやらされることよりも苦痛はない。
それなのに彼らはとてもうれしくて仕方ないという表情をしている。
あまりに恐ろしくってその心から目をそらした。
屋敷で教えてもらった冒険者協会はそろそろだ。
このまま歩いていけばつくんだけれど……
なんだか裏通りすぎない?
ギルドなんて仕事のニンゲンが出入りすればいいから繁華した表通りにあることは少ない。
ただ同時に仕事をする者たちでウロウロするので限度はある。
そして今私が歩いているのは住宅同士のスキマ……
大丈夫なのかこう色々と……と考えている間にも狭い間を私は必死に通り抜ける。
私は小さいから良いけれど装備をもったニンゲンには地獄じゃあ……?
明らかに生活路を通り抜けようやくそれっぽい場所へ。
「目的地はここ……え?」
この建物のはずだった。
しかし……扉は施錠されている。
民家に並ぶ中の普通の扉というの時点で変だけど看板が外され置かれ扉は大きな施錠。
そして大きく張られた板には。
[冒険者ギルドは、宗教で定められていない職の禁止により閉鎖になりました]
「うっそ……」
冒険者ギルドが法律で潰される!?
しかも宗教にない職だからってめちゃくちゃな。
これでは私がこの国での活動登録が出来ない。
つまり私はランクTの冒険者ローズではなくただのローズでしかない。
自由採取も難しいし悪党討伐時の身元保証も困難。
超法的に擁護される部分がなくなり依頼や情報も集まらない。
私の指に光る指輪だけが私の事を保証していた。
かなり怖いな……うん?
「や、やめて!」
「うるせえ! 奴隷がヴァイドに口答えするな!」
なんだ?
誰かが殴打する音が聞こえてくる。
すぐ行こう。




