百四十生目 捕食
妖精たちから2匹の魔物の話は聞けた。
それにしてもこのままだとさすがに自殺しにいくようなものか……
「うーん、情報が少なすぎる……」
「あ、あの!」
「え?」
珍しくドラーグが主張してきた。
「僕が調べてくるというのは、どうでしょう?」
「出来るの? ドラーグ」
「あ、ほら、新しいこの身体なら多分……できます」
ドラーグの新スキルである影に溶け込む力。
確かにそれなら隠密性は高い。
羽ばたいても音がしないのも強力だろう。
「ふむ、主の役に立とうとする心遣い、立派だな」
「あ、はいっありがとうございます」
アヅキは私以外にはいつもあんな感じなんだろうなぁ……
ドラーグもドラーグだが。
「ええと、それじゃあお願いする前に……一旦帰ろうか」
「あ、そうですね」
もう日が昇る。
こちらも準備を整えねば。
洞窟に"ファストトラベル"した。
もちろん彼らも同時に飛ばしたら、
「風の便りには聞いていたけれど……」
ってやや引かれた。
そっちも似たような魔法を使えるのだから引かれる理由が思いつかない。
そんな事を言ったら、
「似たようなことが出来るからこそ、分かってしまう部分もあるんです」
「無自覚は厄介だなぁ……良いか! こういう魔法は少なくとも知る限りでは個人に使用でエネルギーくって! 集団でやるだなんてめちゃくちゃエネルギー使って! 休まずに使えばすぐにすっからかんだ!!」
「私達もそこそこ行動力量には自信あったのですが、2回も使ったらもう危ないですし……複数を同時に移動とか気軽にはとてもとても」
などと言われた。
うーむよくは分からないがなんとなく常識外のことをしているようだ。
みんな自動で生命力治したりするのに自動で行動力治したり出来ないの?
行動力は休めばみんな治るのは分かっているがそれだけなの?
ともかく休憩タイム。
このやたらデカイ洞窟を選んだ理由はある。
とりあえずその理由が来るまでは休んでいよう。
というわけでお食事タイム。
私たちは慣れたもので手早くしまってあった調理器具をバッグから取り出す。
奇妙そうな目つきで見ていた妖精たちだが火をつける段階で驚いていた。
「わわっ、ニンゲンみたいに火を!」
「うん、調理に便利だからね」
「あわわ、私たちは下がっているよ……」
植物だからなのか火は見るのも嫌という様子だった。
ただまあ水がみなぎっている生きている植物って言うほど燃えないから警戒しすぎなくても平気な気がするけれどね。
普通の魔物たちも火はかなり警戒したしそういうものなのだろうか。
私たちはザッと手持ちで調理して獣肉の煮込みを作ったが彼らは食べない様子。
その代わり虫のような薄羽を閉じて彼らは地面へと降りてきた。
「このことは秘密だからね!」
「ここを狙われたらいくら私達でも危ないのです」
そう言って彼らは物陰で土を脚で掘り返す。
しばらくして土が柔らかくなる頃に彼らの脚は変化していた。
なんというか……
「根をはるのか」
「そ! パッと動けなくなるからね!」
「襲われても負ける気は無いですが、無理やり引き抜くと痛いんです……」
そう言って彼らはその根を地面に置くとアッという間に根が伸びていった。
「ふぅ……」
ひと息ついたというため息を2人揃って吐き出した。
実際に私達を追いかける旅は疲れただろうね。
1週間くらい追いかけ回してたのかな。
「お水いります? 生成出来ますよ」
「あ、いる!!」
「気を使わせてしまい申し訳ありません」
ドラーグがふたりの近くに水魔法で水を垂らすと地面へすんなり吸い込まれていった。
しばらくするとふたりの肌ツヤがなんとなく増した気がする。
「食事ってそれだけで足りるの?」
「はい、いいえ。十分に活動するには実は足りなくて……」
「最近まともな食事取ってないからなー」
やはりそうなのか。
まあ光合成と根だけで自由に飛び回る程のパワーが生み出せるかは結構謎だった。
まあそれでもなお効率が良さそうだけれど。
「何を食べるの? 出来る範囲なら用意するけれど」
「ええっと……ちょっとそこまではさすがにご厚意に甘えすぎで」
「虫とか獣! 小さいやつ奴限定だけどね!」
「……もう」
「仕方ないって、お腹減ってるのは事実なんだから。この後ボクたち頑張ろうぜ!」
妖精ふたりの漫才はともかく虫や獣の小さいやつか……
食虫植物ってやつかな。
まあ私なら見つけるのは難しくない。
「わかった、ちょっと獲ってくる」
「本当にすみません……」
「ありがとうね!」
時間をかけるものでもないしささっと行ってこよう。
光魔法"ディテクション"を調整してレーダーに映る反応を変更する。
小さい虫などの反応に絞る。
……うわぁ、出るわ出るわウジャウジャと。
普段は意識していないだけでほんの小さな物陰にたくさんいるようだ。
地面の下にもたくさんいるだろう。
迷宮内だから小さい虫とはいえ魔物。
油断だけはしないようにしよう。
身をかがめ嗅覚や聴覚に頼りつつ正確な位置を割り出す。
普段は無視していた情報の洪水が脳内に流れ込んでくる。
"ディテクション"はこれを魔法が勝手に処理して想像内でレーダーとして表示していてくれるわけだ。
私自身がそれらの中で虫らしい反応を汲み取る。
――そこだッ!
小石の裏にはこれまた小さい虫がいた。
逃げられたり魔法を撃たれる前に"峰打ち"を乗せて、はたく!
スパーンとやれば潰れずおとなしくなった。
……ここから考えていなかった。
さすがに虫をくわえて渡すわけにはいかない。
「アヅキ、この虫をあの子たちに」
「わかりました」
困った時のアヅキ。
手で石の上に乗っけたまま妖精たちに運んでいった。
「主からの贈り物だ。ありがたく受け取れ」
「ありがたく受け取った!」
妖精は元気無く脚を動かす虫をむんずと掴むと頭の上に乗せた。
そして頭の部分が裂けて虫はその中へ。
パクリ!
閉じられ何事も無かったかのように再び元の形に戻った。
え、エグいものを見た。
その顔についている口は発声器官のみなのか。
「んー! 何日かぶりのご飯! 中で暴れるたびに気持ちいいほどのおいしさ! ピリリとしつつ隠れた酸味! いくらでもいけちゃう!」
虫は貴重な動物性タンパク質と叫ぶように食レポされた。
……うん、生き物によって食べるものが違うのは当たり前だね。
そんなこんなでザクザクと虫たちが見つかる。
静かに飛ぶ蝶も耳障りな音を立てる蚊も普通はこんなところにいないから魔物として変化したのだろうケラも捕まえた。
そのたびに彼らは頭を開いて実に幸福そうに捕食した。
「甘い! とろけるような甘みがこのプリプリの身につまっています!」
「サクサクといくつでもいけそう!!」
「足に身が詰まってるー!」
そんな調子でいくつか食べて妖精たちはすっかり満足したらしい。
そういえばニンゲンのユウレンは私たちの食事を少し食べようとした時に『とてもじゃないけれど合わない』と言っていたことがあったなぁ。
こんな気分だったのだろうか。
私も虫は食べられるし食べたことはあるがあのような感想は抱いたことがない。
間違いなく生肉食べたほうが良いと思う。
まあともかく。
私達も今日の食事をした。