三百五十四生目 舞踏
魔物側の姿は不定形だ。
人型のように2足だがそのシルエットはヒトとは遠い。
全身をまるで着込んで外套により覆っているような姿だけど質感が違う。
あれはあれで外皮だ。
寒そうに首をすぼめているようにも見えるがあそこも体の1部。
複雑な服飾のように見えるものも体の中から直接生えていて生態。
そして先程見たような輪っかがたくさん体から生えている。
"観察"!
[ボンガティ Lv.30 比較:普通 危険行動:サイキックノイズ]
[ボンガティ ガッティのトランス体。大きな鐘のような肉体は重く動きを抑える代わりに、凄まじいまでのサイキックパワーが増加した。自分で力を増幅し戦う]
そしてニンゲンの方。
手には多分……ガンダサとかいわれるはずの武器が。
正直私もまだまだ勉強途中だから判別しづらいのもあるが。
ただ象のナイフと呼ばれる武器で30センチくらいしかないはずなんだけれど。
どう見ても1メートル近くはありそうな刃の長さ。
何よりその分厚そうな斧頭。
両刃でしかもそんなに変えられたあげく金色の華やかな装飾と良く磨かれた斧腹。
ささやかなアクセサリもついており武骨にならないよう調整されている。
その斧からして美しい女性の持ち主はつかつかと歩いて倒れている騎士に近づく。
そして片腕で大の男かつ鎧を着込んだ相手を抱き起こす。
「走れますか? すぐにこの場から離れ、周りを掃討なさい」
「は、はい! 軍団長!」
その女性が纏う鎧は柔軟に輝き全身を柔らかく覆う。
しかしその鎧は明らかに金属で頑強かつ魔力がこもっている。
きらめく飾りたちは1つ1つが武力のために強化補助が込められていて……
鎧の代わりに深い貴婦人のような帽子をかぶっている。
……なまじ戦いに通じたものが見ればその帽子が鉄の兜よりも高い防御効果魔力を頭全体に施していると見抜けるが。
その髪はどこかで見たように艶のある黒さで瞳は見目麗しく青色で笑顔だった。
アール・グレイの言葉がリフレインされる。
『とても強い方です。いつでもみんなの支えになり、いつでも見目麗しい立ち振る舞い、そんな淑女の鏡みたいな方です』
私の中にあるアール・グレイ母、貴婦人像が音をたてて崩れてゆき……
かわりに文字通りすぎる目の前にいた存在へと目が釘付けになった。
「そこの気高き眼差しをしている獣さん、詳しい話は後です。味方ならば、周りを抑えてくださいませ。ワタクシ、この相手を抑えますので」
「……あ、私!? は、はい!」
そんな呼ばれ方したのは初めてだ。
確かに虫魔物なんかも集まってきていて戦いに集中するとすれば危険だ。
実力者みたいだし任せよう。
「チルマルド・ファーエン・ブラドマナ・ルイスラーマ、我軍を強襲し時間稼ぎをしている罪を裁く者の名です。生涯名を刻みなさい」
『名など意味のないことを……2度目はない』
やっぱり彼は念話で直接意味を脳内に伝えてきているからみんな言葉が理解できるのか。
互いに息を整え短期的なスタミナ回復をはかっていただけではない。
どちらも補助の効果を発動させ自身の力を引き上げている様子だった。
つまりここからが本番……!
近くにある大きめの石が白い光に包まれたのとほぼ同時に爆音が響く。
ルイスラーマが前へ駆けるため地面を蹴ったのだ。
力と重みで1部が爆ぜたのか……
そして石が浮かび上がりルイスラーマに襲いかかって……
踊るようにルイスラーマが斧を振るう。
いつの間にやら飛んできた石が粉砕される。
目の前までルイスマーラが踏み込み……
突如ルイスマーラはボンガティが跳んで離れる。
するとボンガティが手をかざしていた形を歪め顔をしかめる。
「なぜ気づいた。貴様のような輩が、感知できるはずもない」
「さっきの騎士たちを吹き飛ばした時見た動きですからね。それに念力の技はどうやら意識を傾ける必要があるようですね。あそこまで殺意を向けられれば、反応さえ間に合えば誰でも避けれます」
「理解を超える反応速度か……野蛮め」
つまり今のはまた念力でルイスマーラを捕まえようとしたわけだ。
私の場合はなんとなく魔力の移動で感知できたけれどすごいな……
話している間にも戦闘は続いてる。
何度かルイスマーラが接近しようとしてそれをボンガティが石や地面それにおちている武器を念力で投げつける。
当然のようにルイスマーラが払うがどうしてもあと一歩のところで避けざるおえなくなり距離が離れていた。
あまりに小気味よくやるのでボンガティを中心としたダンスじみている。
「リードが下手ね」
「野獣と遊ぶ趣味はない」
突如ルイスマーラが強烈な闇の光の塊を放つ。
まるで周りの光を吸い込みながら成長しゆっくり前進する紫に近い黒の光。
「ワタクシがリードしてあげる」