三百五十二生目 紛争
私たちは屋敷の安全をチェックしたあと足早に去る。
夜になってしまったので心情的には休みたい。
ただ今行軍する価値はある。
それをわかっているのかアール・グレイも弱音ひとつ吐かずカルクックに揺られながら真剣な眼差しをしていた。
ちなみに屋敷カルクックは出来得る限り重要な兵力としておきたいためレンタルカルクックのままである。
ただ……現場馴れしていないニンゲンが連続して動く限度を超えている。
「アール・グレイさん、これ飲んでください」
「……うん!? お、おお、これは?」
私がイバラを伸ばした事自体にもまだ慣れていない様子だが今のは視界に入るのも遅かった様子。
やっぱりだいぶおつかれみたいだなぁ……
伸ばしたトゲなしイバラの先には1つの瓶。
器を透過すればわかるが中には液体が入っている。
「元気が出る薬で危なくないやつです。アヘンチンキではなく、即効性と遅延性の複合効果を配合した市販薬の強化物ですから、今のうちに飲んでおいてもらえると助かります」
「そんな! お気遣いなく……」
「これからアール・グレイさんのお母さんへ会いに行くのに、そんな危なかっしい顔をしていたら余計な心配をかけてしまいますよ」
「うっ……」
痛いところをつかれたらしく苦笑いをする。
そしてじっとこちらを見てきた後……
瓶の中身を受け取った。
「……ありがとうございます、いただきます」
「うん、どういたしまして。少しずつ飲んでね。そっちのほうが効力高いから」
アール・グレイは素直にちびちびと飲みだす。
しばらく走っていると顔つきがだいぶ柔らかくなってきた。
これならば大丈夫だろう。
そのままカルクックと共に駆けていけば夜。
あたりが暗くなってもアール・グレイは"人騎一体"などのスキルを駆使し騎兵用ランタンで前方を照らして暗闇を進む。
進めば進むほど暗い道のりになり。
「ひえーっ、ここまで暗いと、いきなり横から襲われそうだなあ!」
「横は警戒しているから、安心して走れ」
「こっちも見てるよー」
カルクックはまさしく鳥目。
夜にはきかない目をカバーするのは私たちだ。
正面は照らしているのにギリギリ見える。
そろそろ予定目的地だ。
そこでかち合わなければルートを逆順か従順でいく。
よし。あと10分ほど走ればつく。
「そう言えば、アール・グレイのお母さんはどんな方ですか?」
「母上は……そうですね。とても強い方です。いつでもみんなの支えになり、いつでも見目麗しい立ち振る舞い、そんな淑女の鏡みたいな方です」
「おお、凄い褒めますね」
「ええ。自慢の母ですから」
アール・グレイの目はまだたどり着かない母がいる主力部隊を既に見据えているかのように柔らかいものになっていた。
ちゃんと無事合流できないとな……
しばらくそんなようなことを話しながら駆けていればやがて明かりが見えてくる。
あそこが予定では隊と当たる付近だが……
なんだ。騒がしいしこのニオイ……!
「そろそろ母上と会えるかな……」
「アール・グレイさん、カルクック、ちょっと急ごう!」
「な、一体……」
「わかったぜー! かっとばせばいいんだなっ!」
「うおっ!? ……まさか?」
さすがに感知は私が1番早い。
速度を上げて一気に駆ける。
私が先行する形となりしっかり聞こえてきたのは剣戟の音。
そして血と火のにおい。
燃えた光も見える。
戦闘だ!
「みんな!」
アール・グレイも武器を構える。
フィランギとも呼ばれる直剣だ。
その刃は正義を誇示するかのごとく一点の曇りもない。
戦いは騎士たちと……
なんだろう……魔物?
大量の魔物に襲われている!
カエリラスには魔物も所属していた。
カルトスにいてもおかしくはない。
そのためニンゲンの調教師や賢い魔物がトップにいるはず。
人語を操れる魔物は私だけではないし理念を多種族に語りかけるやつもいるだろう。
つまり"無敵"のような力を悪用している場合だ。
カエリラス騒動で保護ではなく捕らえた魔物は多い……
合戦している中でニンゲンと敵対している多くは虫や肉食獣だ。
不定形も見られる。
ちなみに不定形とは魔物の中で人型や獣型または鳥や魚みたいに明確な形を得られない魔物の事でスライムはスライム型になる。
ここに見える不定形は体に大きな輪をつけて背後に伸ばしている球体。
目や口は見られるが強烈に魔物たちを強化する魔法を使いそれが苦戦に繋がっているみたいだ。
回復も重ねていてあんな支援が強い魔物はなかなか珍しい。
"観察"!




