三百五十一生目 歓待
色々とゴタゴタした。
私たちが殺気立って突入したこと。
そして無事とは言い切れないが多くの人々がまとまっていたこと。
アール・グレイとアール・グレイ父……辺境伯たちの感情がゴチャゴチャになって現場がパニックになり。
しばらく時間がたって。
「お前の速達便で助かったよ、ほんのわずかな時間差とは言え、不意打ちを受けず済んだ。ベッドの上でクビをかき切られなければ負けるようなファーエン家ではない」
「本当にご無事で良かった、父上……! 母上たちは?」
「あいつと主軍たちが出払っているときに狙ったのだ。今は外回りして、撤退した敵たちを捜索するよう指示を出した。こちらの仕事を完全に把握した犯行……やつらの目的は我々の命ではなく、裏切ったと言える証拠だ。やつら程度に何らかを探れるようなヘマはしていないが、こちらが拷問や取引の材料にされずに済んだのは良しとしよう」
アール・グレイの父親と称される人物は若白髪と言えそうな雰囲気があった。
全体的に顔はけわしく目は鋭いしそこそこ年齢を言っていそうだがにおいから察するにまだそこまでではない。
髪は白髪交じりながら赤く燃えるようで目は直ぐ側の目と同じ琥珀色をしていた。
私が一気に治療することで彼は今平気な顔をしているけれど絶対血が足りていないし痛みもあり体力も精神もしんどいはず。
それなのに平然とした顔で指示出ししているのはさすがだ……
「安心しました……父上、改めて紹介させてもらいます。こちら、今回の協力者の方です。非公式ですが、かなり頼りになるかと」
「とりあえず先鋒として私、ローズオーラが来ました。後から許可さえ貰えれば味方を引き連れてくることにしています」
「なるほど……到着早々、その凄まじい回復力を見せて貰いました。わたしはチルマルド・ファーエン・ブラドマナ・フィノルド辺境伯。ローズオーラさん、魔王討伐の実績がある貴方がたを迎えられて、非常に誇りと思います」
「あ、ご丁寧にどうも……あれ、名前の法則がまだ良くわかってないんですが、アール・フィノルド辺境伯ではないのですね」
「ええ。アールとは王位継承権を持つものだけがつく名前。わたしも一時ではあったが、アールの名を持っていました」
親子共々立場が立場なのに腰が低い!
兵たちや従者たちへも別に鼻につくような態度はなくむしろ堂々としていて素直に従いやすい。
まさしく親子だ……!
「本来はこちらが歓待をせねばならない立場だが、状況と今回の依頼上それは困難になっている。不自由をおかけするが、どうか意を汲んでいただきたい」
「ええ、それはもうっ」
「一応表向きには、ローズオーラさんたちアノニマルースは魔王討伐をした実力を評して我々の国でも接待させてもらう……まあ言ってしまえば、銀竜神を金竜神の使いがもてなすようなものですね」
「つまり、資金面など物資でアノニマルースを懐柔する一環と見せかけるわけです」
なるほど私たちを抱き込む政策の1つに見せかけているわけか。
それなのに正規ではないとはいえ襲ってきたのはやはり内通者がいるんだろう。
そこは彼らにまかせるとして。
「わかりました、とりあえず今すぐしたほうが良いことはありますか?」
「ふむ、既に結構な事をしてくれた上、長旅の疲れを癒やしてもらいたいのだが……」
「あ、出たの今日だから長旅じゃないですよ」
「……うん?」
「父上、実は……」
アール・グレイはここまでの道のりを話す。
道中で従者とはぐれたこと。
私と共にワープしてきたこと。
国境では色々あったけどなんとかなったこと。
そしてここまでワープしてきたことを。
「なる程……本当に急行を。それほどまでしたら、やはり通常は酷くお疲れになるはずですが、英傑殿には問題ないようですね」
「ローズで大丈夫ですよ。私は体力には自信あるので!」
「では、恥を偲んで頼み事が。顔見せも兼ねているのだが、外回りしている我が辺境の主力部隊に会ってもらい、話を持ち帰ってもらいたい。ぜひ妻の無事も知りたいからな……こちらは今あまり動ける人材はない。頼めるだろうか?」
「わかりました。アール・グレイさんは……」
アール・グレイはここに残って警護をするのも外回り部隊にあって置くのも重要だ。
彼は目を軽く閉じ少し悩んで。
そして答えを出す。
「ワタクシは、ローズオーラさんについていきます。うちの主力隊もピリピリしているはずなので、誤射されるのは避けられるはず」
「ソレは助かります」
「解った。お前の弟妹たちは隔離された場所で保護している。存分に動け」
「はいっ!」
様子を見るに小さな兄弟がいるのかな?
がんばれお兄ちゃん。




