三百五十生目 父上
ウクシツ大河は澄んでいて冷たそうな水をどこまでも遠く遠く運んでいる。
それは壮大な光景で美しさが極まっている。
こういう大河ってなんとなく凄まじく泥水なイメージがあるんだけれどすごくきれいだなあ。
「美しいですね、この景色」
「でしょう? この大河は大河王国全てに水を行き渡らせる聖なる川でして、源流はあの帝国にある大山脈、そして今通ってきた国境山脈、さらに少し遠いのですが烈火山脈野3箇所から流れこみ、合流することで聖なる効果が発揮され、常時煌めいてどこからでも綺麗ですし、何よりも見るものの心に感動を与えるのです」
確かに複雑な魔法原理はわからないがこれは凄い。
祝福された大河というのが脳内に浮かぶような光景。
ただ……大山脈って蒼竜の身体だよね?
みんな知らないだけで蒼竜が眠る身体なんだけれどそこからの水と考えればもしかしたら蒼竜の力もややあるのかもしれない。
それは……それはなんか嫌だな。
蒼竜汁じゃないか。いや氷が融解した水だから関係ないのは分かっているんだけれど。
山を完全に降りてしばらくは移動。
アール・グレイは鳥を借りて乗り移動。
カルクックたちだ。
烏骨鶏を思わせるが身体は馬のように大きい。
この世界でよく使われる移動手段だった。
「別に私に乗ってくれても良かったのですが……」
「いや、これ以上ローズさんに無駄な体力を使わせるわけにはいかないのです。それに、彼も走りたがっていますしね」
「ヒャッハー!! かっ飛ばしてくぜー!!」
そういえばアール・グレイって翻訳する受信機を持ったままだったか。
身体を動かしたがっているカルクックの暴走的な走りを"人騎一体"で見事乗りこなしている。
さすがの力だ。
だいぶ移動したが大河は本当に大きいのがわかる。
何せ移動してもしてもまだつかない。
近づくほどに巨大さを理解するばかりだ。
「そろそろ日が暮れますから、近くで野営をしましょう。本当は泊まれたら良かったのですが、さすがに私の屋敷までたどり着く間に村人たちから情報を拾われかねないので」
「あ、それなら直接屋敷に飛びます? 私にまた記憶を見せてくれれば良いので」
「えっ、日にそんなエネルギーの消費をしてよろしいのですか!?」
「大丈夫ですよ、そういう能力だってあるので」
"疲れ知らずの魔毒獣"があるのは伊達ではない。
元気元気。
「で、では……お言葉に甘えて」
またアール・グレイから記憶を送ってもらう。
見えるのは城壁でなおかつ特徴的な屋根を持つ広そうな屋敷。
まるで屋敷全体が1つの陶器みたいだ。
「では、まだ手を」
「本当はカルクックくんに乗って行きたかったのだけれどね」
「えっ!? もしやお役御免!?」
「うーん、もしかして屋敷にいるカルクックって特別というか、目立つタイプではないですか?」
「ああ、非常に高貴な血統種が……あ、なるほど。それを動かしていれば、辺境から出たとき変装していてもすぐワタクシだとバレてしまうから……」
「ええ、このまま借りましょう」
ここまで走ってきたのは私のワガママではある。
本当はあの大河につきたかったのだが本当に遠い。
単独ならまだしもふたりなのだから楽しみは後にしよう。
「やったぜ! あんがとな二人共! この後もっとかっ飛ばしてくぜ!!」
私たちは空魔法"ファストトラベル"でワープした。
私たちは光の塊としてこの地に降り立ち……
実体化する。
ちょうどいい具合に門前に降りれたようだ。
ただそこにあったのは。
「な……! ばか、な……父上……!」
あちこちに戦いの傷痕が残り屋敷の1部が破壊された無残な姿を晒していた。
今はもう攻撃の音は聞こえない。
果たして中は無事かそれとも。
「アール・グレイさん!」
「そうだ、今助けに!」
「おっしゃあぁ!!」
正面門を蹴破るようにカルクックに乗ったままアール・グレイが突入。
私はその後に続く。
庭は広々としているのに明らかな荒れ具合で生気が感じられない。
記憶の中にあった麗しい景観はどことなく萎えているようだ。
不思議なことに血の匂いが薄い気はする。
アール・グレイが扉の前で勢いよく飛び降りた。
「父上、母上、今戻りました!」
そのまま扉を大きく開く。
中は静寂で切り傷もあり焦げたような戦闘跡や銃痕も見られる。
急いでアール・グレイが駆けていく背後を警戒するよう追いかけていく。
……うん?
この感じ……
アール・グレイが駆けつけた奥の部屋で……
そこにあったのは。
血にまみれた光景。
「……煩いぞ、グレイ。はしたないし、傷に響く」
「ち、父上!!」
そこには多くの人が治療中の姿が見えた。




