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三百四十五生目 悪魔

 国境兵士たちにかこまれたけれど。


「おお! 本物のローズオーラ様!」


「今日はこんなところまで何を!? また危険な敵が!?」


「さ、サインください!」


「いやあの、アール・グレイさんと共に大河王国へ行きたいと思ったのですが」


「そ、そうでしたか、しかし……」


 やはりかなり困っている様子。

 そもそもアール・グレイにも事情を告げられなかった時点でちょっと面倒事になっているはずた。


「だったら解決を私に任せることはできませんか? 素早く大河王国と出入り出来るようにしてくれれば、格安でお引き受けできますけれど」


「それは……」


「英傑の活躍、みたい、が……」


「我らだけでは……わかりました。判断の出来る者のところへお連れします」


「ありがとうございます」


 よし話がついた。

 こういう時は解決可能かどうかは置いといて堂々と話を聞く。

 我ながらなかなかうまくできた。


「……アナタは、本当に凄いお方のようだ」


 アール・グレイが驚きで琥珀色の目を丸くしながら呟いた。









 建物の奥に通される。

 結局上級貴族用待機室みたいなところだ。

 なんというかいかにも豪華さを重要視していてきらびやか。


 小声で隣のアール・グレイに話しかける。


「……この部屋にある飾りと、例の記憶にある飾り、どちらが高いのですか?」


「……失礼を承知で申し上げますと、この国境門設備まるまる1つ分建てるための費用と1つの飾りが釣り合うか、向こうが重いぐらいかと」


「えぇ……」


 思っていたよりも凄まじいんだなああの部屋……

 この部屋も少なくとも安くはないというよりも上級貴族も待たせられる部屋だよ?

 ツボとか絵画とか飾っちゃってるよ?


 あんまり待たずに扉が開かれる。

 入ってきたのはガリガリのおじさん。


「おお、おお! ほ、本物の英傑様! そしてファーエン辺境伯の息子グレイ様、よくぞこんな所へ。そして、頼みを聞いてくださるようで、感激至極でございますっ、わたくし、ここを担当させてもらうリウですっ」


「「は、はい」」


 ふたりとも圧されるほどにガンガン低姿勢で来られた。

 これはこれで国境では珍しいタイプ……!

 姿勢が低いからこそ凄まじく押し込められそう。


 早速全員席についた。


「朱竜神によりもたらされる炎によって晴れ渡る日にて、今ここに縁の紐が結ばれんことを祝福し、挨拶の返しとしたい。晴れ晴れしい心により、今銀竜の時結びが織りなされ、我々がこうして出会えた。美しき出会いは、5大竜が我々に喜びを与えんがために(もたら)した命の響き合い。この時を金竜が(もた)らす永劫の宝とないるように、祝福をもたらしたい」


「承ります」


 なんか前聞いた省略バージョンよりはるかに長い挨拶をしたあと知っているのか普通に対応する。

 リウさんが軽く頭を下げるとアール・グレイは胸のあたりにある王位継承権の首飾りに力を込め……

 (エフェクト)が放たれて淡い光がリウさんを包む。


 アレは確か祝福魔法……詠唱破棄型かな。

 ハロウィンで使った薄暗い結界と似たようなもので対象に少しの活力を与えるぐらいの使い方がある。

 祝福魔法自体そんなに効果的ではないがこういう儀礼的な使い方がある。


 またこちらの魔力をあまり魔法に変化させないで伝えるという技術でもあるため意外にも使える場面はある。

 心だ。

 自分の魔力で相手に深く印象残りこちらの意識が残りやすい。


 儀式で用いるすごい祝福だと感動的なんだとか。


「……後で基本的に抑えておいたほうが良い、大河王国の貴族的言い回しって教えてくれますか?」


「……なるほど、それは確かに。あとで軽く」


 小声でやり取りしつつ元の姿勢へ戻る。


「祝福ありがとうございます。祝福をお返しする能力がないのが悔やまれるばかりです」


「わかった。その気持ちを祝福の代わりとして受け取ろう」


 ひゃー。

 凄まじくめんどうだしなんでアール・グレイさんと初対面時端折られたかわかった。

 動きへの理解もあるし長いしなによりもあの隔離密室で魔法をいきなり放つことになるため正気じゃない行動となる。

 そりゃやらないわな。


「さて早速本題ですが、実はお恥ずかしながら、現在山狩りに手こずっておりまして」


「不法侵入者を……珍しい。通行を妨げるほどの事態となるとは」


「我々も出来得る限りのことはしているのですが……国境ギリギリのラインから防衛線を張っているため、国境より外には行っていないのは確実です。この低い部分でなければ、

彼らすらもろくな装備なしでは登山困難なため、もし無謀な突撃をしていたらこちらも無視で良いでしょう。しかし問題が。彼らは悪魔を宿した魔物たちを放っているのです」


「悪魔の目憑きを!?」


 私の表情が険しくなると同時にアール・グレイの顔も曇る。

 自然発生ではない悪魔憑きを放てるだなんてカエリラスの系列でしかない。

 まさかアール・グレイの仲間を襲った『下賤なる輩』って……!


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