三百四十四生目 国境
独特な言い回しの1部がわかった。
もうあれは良いとしてだ。
「ワタクシたちふたりでまず戻るのですか?」
「ええ、最初から多いと、明らかに謀反か何かに見えてしまうので……今回のはそういうことをしたいわけではないとお伺いしていましたし」
「それは……そうなのですが、道中は長いですよ」
「それなら大丈夫です。さっきの記憶を繋ぐ能力って今もできますか?」
密談部屋で見せた能力……
時間制約がなければまた見せてもらえるはずだ。
そのとおりだったらしくアール・グレイは頷く。
「はい。できます。しかし、一体何を……」
「国境付近で安全そうな場所、特に記憶にしっかり残っている場所をチョイスできますか?」
「少し待ってください……はい、あそこなら……では、お手を」
アール・グレイがかざした手から光が溢れ出す。
それに向かって私が手のひらを伸ばすと……
私の脳内に記憶の映像が流れ出す。
――どこかにある長い門構え。
その背後は大きな山の登山口。
そしてアール・グレイが見上げるのは旅人用の店と。
立派に掘られた竜人の像。
どことなく蒼竜を思わせるが本人よりも逞しく太い。
そして手には大きな珠と渦が3つ巻いている摩訶不思議な盾が備え付けられていた。
――記憶はここで閉じられる。
「今の山が国境ですか?」
「ええ。帝国側は特に、立派な山岳守護蒼竜使像がありますから」
あれはそういう名前なのか……
よし。
私はアール・グレイに手を差し伸べつつ魔法を唱える。
「では、少し手を貸してください」
「あ、はい。失礼して……」
「離さないでくださいね……それ!」
しっかりとアール・グレイの手を握り引いて……
空魔法"ファストトラベル"!
記憶の場所までひとっ飛びだ!
景色が切り替わりどこかの外。
しかし目の前に立派な像があることでちゃんと成功したのがわかる。
国境前だ。
像のところにあまりニンゲンはおらず注目もされていない。
魔法でざわつくのは避けられたようだ。
「これは……!? まさか、本にもあった転移魔法!? こんなにあっさりと成功させてしまうとは……想像以上だ」
「空間系魔法は素ではあまりに組み方が力任せで、結構改造したら使いやすくなったんですよ、さ、行きましょう」
「え、ローズさん!?」
アール・グレイの手を引きそのまま進んでいく。
時間もあまり余裕がないと聞いているからね。
どんどん行かないと。
「気にしないでください、魔物はもちつ持たれつです」
「あ、はは……」
パパッとあたりを物色して国境門前へ。
基本的に大きく場を分けるのは山らしく私の前にある国境はそこまで物々しくない。
……多分山中は物々しいけれど。
「さて、どうすれば抜けられますか? さすがに魔法で不法侵入はまずいかなとここに来たのですが。許可証もないので合法的にはワープが難しかったですし」
「……もしかして、国境結界も突破できるのですか?」
「ええ、まあ大抵なら」
「それは……もう深いところに突っ込むのは朱竜神の竈に手を突っ込むようなものですね。そうですね、入るときは従者たちもいましたし、ワタクシも辺境伯の名で簡単に通れましたが……」
そう話しつつ今度はアール・グレイが前に立ち私は後ろへ下がっていて待つ。
1人のほうが話は通しやすいだろう。
アール・グレイが近づけば兵たちはおもむろに動き出して道を塞ぐように武器を構える。
いわゆる普通の対応。
「ワタクシは大河王国の辺境伯が息子、チルマルド・ファーエン・アール・グレイ。こちらが出国許可書、そしてこちらが入国許可書になる。連れもいるが、身元引き受けはこちらでする。通してもらいたい」
「ハッ! ファーエン辺境伯の方、たしかに。しかし、今はしばし待機願いたい。こちらの問題で、やや時間がかかる」
「何……? 一体どうしたのだ」
「ハッ! それはファーエン辺境伯の方と言えど、他国の方に話して手を煩わせるわけにはいかないこと。上級貴族待機室でしばし旅の疲れを癒やしてもらいたい。おい、ご案内だ」
「なっ?」
あれっ。
アール・グレイが兵たちに連れて行かれそうになっている?
なんだか凄まじく時間がかかりそうな予感がする。
私は慌てて国境兵たちの所へ移動。
「どうしたの? 一体何が……」
「ハッ! ……あ、ああっ!?」
「お、おいフー! まさかこいつ、いや、この方はっ」
「ああっ、見たこと有るべ!」
「……救国の英傑がひとり、『剣折姫』のローズオーラ様……!? どうしてこんなクソ田舎、いえ、へんぴな場所へ!?」
……あれ。私もかこまれちゃった。




