三百四十三生目 引率
アール・グレイが持ち込んだ本たち。
それは……
「わ、私の事が書かれた本!?」
図書館にもあった私の事が書かれていた本の別言語版。
大河王国で使われている言葉だろう。
見たこともない本があるのはおそらく大河王国にしか流通していない本。
グレンくんが今ダウンしているから前々から私がかわりに表へ出ているような状況になっている。
ダガシはあくまで1村人になりたがっていて裏方に回っちゃったし。
兄弟はそういう欲がない……いや面倒がって私に投げてくる。
イタ吉は目立ちたがりだがスケジュール管理上忙しいのもまんま魔物姿なのもありニンゲンからのやり取りは少ない。
他の面々も私よりは断然少なかった。
なんか私無駄に目立ってしまったみたいなんだよね……
そして私やイタ吉に関することとなると絶対アノニマルースにたどり着く。
というよりアノニマルース軍は戦争に大きく携わっているのだから。
私が魔物なのかはたまたニンゲンなのか? そういうのは結構玉虫色の扱いだが……
さすがに大陸まで離れた相手には知名度がないことを朱の大地で試している。
重要視するのは帝国の隣国……つまり蒼竜がいる大陸にあるからこそだろう。
「なるほどな……魔物たちの軍てぇのに目をつけたか」
「はい。人と仲を良くしようとする魔物は珍しく、同時にまだまだ世界政治に食い込んでいる存在ではありません。実力も魔王討伐と最高峰ですし、そこにローズさんの活躍も凄かったと聞き及んでいます。本当は魔王に挑んだ全員に頼み込みたいところですが、まずローズさんに話を通せばそれでいいと言われまして……」
なるほど……アール・グレイはあくまで本や伝聞を全部信じているわけではないな。
それはかなり助かるけれど。
実際誇張やごまかしが多い。
あと勇者の力がほとんどだという認識は間違いなくあるだろう。
私が自分で言うのもなんだけど凄まじいパワーやら神の力やら剣ゼロエネミーの戦場力やらあやふやにしておいたり黙っていたりするものはたくさんある。
代わりに盛られたものも……
「なるほど、だからこうしてこうなったと……非公式なのも納得行きました」
「はい。こちらの問題も大きいのですが、こちらの事情にアノニマルース全体を巻き込み、勝手に同盟軍として担ぎあげる形になるのはなんとか避けたかったのです」
「それは正直ありがてえ。アノニマルースとしては少ない兵数を政治的ないざこざに割きっぱにしはしたくねえ」
「わかり……ました。それなら……」
頭の中で整理し考える。
アール・グレイは少なくとも彼の自覚上嘘はついていない。
においも至って真面目だ。
もちろんこちらを出し抜く手段など複数あるのが高貴なる立場というものだろうが……
その場合こちらも打てる手はいくつかある。
幸い私自身も今は朱の大地方面が動けない。
「引き受けます。色々と契約魔術は結んでもらうことにしますが、私はこれから指示を出して現地へ向かう準備をします」
「おお! ありがたい! ありがたい……!!」
アール・グレイくんは立ち上がりおそらく敬礼をする。
多分あれが大河王国流の感謝の仕方なのだろう。
そして私の元へ来て跪く。
「えっ?」
「ワタクシの願いを聞き届いてけてくれてありがとうございます。アナタが助けになってくれるのならば、ワタクシはこの身を捧げましょう」
アール・グレイは手のひらを上に差し出してくる。
困惑しながらもその手を取ると……
その手をそっと額に寄せた。
……えっ!?
「さあ、参りましょう。こちらへ」
「えっ、え?」
私は引かれるがまま立ち上がり……
そのまま導かれるように歩いて外への扉へ。
「おや、もしかしてこのような事は初めてですか? 大丈夫です、人の作法ですから、身を任せて……」
私……エスコートされてるー!?
衝撃体験を受け少しの間魂が抜けていた気がするが……
なんとか準備を整えいざ出かけることに。
メンツは後で時間都合によって呼び出すとしてはまずは私とアール
・グレイが行くことに。
ちなみにアール・グレイがジャグナーに文を渡し検文したのを私に渡してきて……
ジャグナーが「こんなの別に直で言えばいいだろ」とそのまま投げてきた。
長ったらしくまた若干雰囲気だけで書いてあったが……
翠竜の花と果実とは元々自然由来な美しき光景を指すらしい。
だが物事には常に複数の意味がつきまとうもの。
転じて麗しき女性が花……
そして性接待が実を示していて。
食べる事もできるということはそういうことだった。
変にごまかすせいで逆に恥ずかしいことになっていたわ!
本当に大丈夫なのかこの先……
あと男の子がそれだと不味いという意味もなんとなくわかったよ……
性接待が男の子! 駄目な点しかないわ!
それが王政の腐敗で強く繋げられるあたりもまあそうだろうな!
まさか……性的なことだからってボカされていたとは思わなかっけれど。
もっと言いにくい国特有のことなのかと思っていた。




