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三百四十生目 術具

 アール・グレイは第10位階王位継承権をもっていた。


「ワタクシは平常時ならば託せる相手に任せる宣言し、辺境伯の立場を引き継ぐのが使命。しかし、偶然とは言え不正を見つけてしまえば見なかった事にはできない。王位継承話をする前に、王政の腐敗をただしたいのです」


「具体的には、どのような不正がありましたか?」


「事実なのにまかり通っている不正がまずいくらか」


 アール・グレイが軍の部下に頼むと資料が机上にいくらか載せられる。

 かなり奥まったところまで書かれている資料の断片だ。

 多分二重帳簿は当たり前にされて本来よりも課税が重くされたり。

 近年の法改正がどんな闇取引があったか書かれている。


 ぶっちゃけかなりひどい。


「なんというか……これは……」


「そもそも、諸外国と比較した場合、政治運用がどんどんずさんになっている点も気になるところです。他国が良く自国が悪いと二極論を言うつもりはありませんが、諸々自国の内情を知る身としては、さすがにここまでには腐敗していなければならないと、断言せざるおえません」


「しかしまあ、これらの資料ってようは重い物的証拠にはならない範囲だよな。簡単にはぐらかされる範囲でもあるし、あんたを信じていないわけではないが、このぐらいなら『作れる』わけだ」


 ジャグナーの指摘はもっともで断片的な写しや他から推測したものばかり。

 国内の者同士で強烈なバッシングするには十分だがそれに対して海外が動くには難しい。

 それはアール・グレイも理解していて話を進めていく。


「もちろん、だからこそ決定的な証拠を新たに得たいというのもありますが……もうひとつ、王政腐敗決定的な証拠が、ワタクシの中に眠っているのです」


 アール・グレイは自身の頭を指す。

 記憶……か。

 ということは。


 アール・グレイがまた軍の兵士に頼めば道具が出てくる。

 魔術具で『虚言の裁き』というものだ。

 雷のようなものが常に走っている球体を台座に固定したもの。


 これを介せば嘘をついた時に反応し雷を落とす。

 判定方法は本人の意思に寄るため嘘がどれほどうまくとも関係がない。

 虚言癖や嘘を吹聴され真実だと思いこんでいるような自身すら嘘が本当かわからないようでなければ欺けないため非常に効果的だ。


「この魔術具、既にオンになってアール・グレイさんと繋がっていますね……」


「ああ。こっちの部屋に来てから常にオンだ。つまり、少なくともやっこさんはここに来てから嘘をついているとは本人が思っていねえ」


「ええ。五大竜にかけて。この魔術具を使っている状態のまま、ワタクシの能力で記憶を共有させてください」


 記憶の共有……念話の派生応用の1つかな。

 アール・グレイが手のひらをかざせば(エフェクト)が淡くともる。

 あの魔術具は言動に反応しているのではなく嘘をついたという心理に反応する。


 これでも問題なく判定できるはずだ。

 ちなみにおべっかや虚勢みたいな姿勢の違いまではわざわざ反応しない。

 私たちも手や前足を伸ばせばそこから意識が流れ込んでくる……








 ここはどこだろうか。

 とてもキレイに整備された廊下だが……

 そう思っていれば意識の中に『王宮の廊下』と流れてくる。


 なるほどこうしてわかるわけか……

 じゃあなぜアール・グレイはここに?

 ……『王位継承権を持つ1から10の者が集う、会談。顔合わせと情報の探り合い』と流れてくる。


 さらに『普段行けない最奥部に、噂を確かめるため単身潜り込む』とも。

 ちょっと思ってはいたけれどアール・グレイはかなりアクティブだね……


 大変だなあ王政も……と考えている間に映像へ変化がある。

 ちらりと廊下の端に映る影。

 何か軋むような音がした。


 ここで記憶内のアール・グレイは地図を思い浮かべたらしい。



(……事前に手に入れた情報と構造が一致していない……)


 明らかに不審。

 バレないよう気配を遮断する魔術具を維持しつつそっと覗き込むと……

 奥の部屋へと入っていく1つの姿。


 完全にいなくなったのをチェックしたあと部屋へ忍び込む。

 幸い警笛のたぐいはなかった。

 中の部屋は……


 目に飛び込むのはこの世の贅を極めようとせんほどの調度品。

 美しい肢体を持つ女性たちがさらに奥の部屋に。

 目を覆うベール……つまりベリーショートベールつまりをつけていて顔をうかがうことは出来ない。


(もしや噂は本当か……)


 そうアール・グレイが考えつつ女性が向かった先の扉は置いといて別の扉を覗き見る。

 すると……


 アール・グレイが先程食べた食事らしいものが見劣りするほどに豪勢な食事が並んでいる。

 誰も食卓についていないのにだ。

 

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