三百三十九生目 息子
美青年は琥珀のように澄んだ目の色をして挨拶をしてくれた。
名前はアール・グレイ。
手入れされた黒でなだらかに反射する色は赤くなったようにも見える。
「本当に、魔物たちと話せて交流できるというのは不思議な気分になりますね……」
「ええ、少しずつ慣れてくださいね」
「恐れ入ります」
丁寧な物腰でアール・グレイは勧められた席についた。
明らかに浮ついているし浮いている。
逆になんでひとりで来たのかがまったくわからない。
「早速本題に入りましょう。今回、非常に込み入った事情があるとのことでしたが……」
「ええ、そのとおりなのです……」
アール・グレイは私の目をじっと見てきてまるで透かすかのように視線を向ける。
真剣な目つきのまま見つめられるとつい獣的な会話意味合いで目をそらしたくなる。
ただ相手はニンゲンなので意味が違うため我慢して。
相手は机から身を乗り出すようにして言った。
「我が国を、救国してもらいたいのです!」
……うわ。
「え、お断りしていいですか?」
「いや駄目に決まってんだろ、早すぎるし話を聞け」
ジャグナーに速攻で否定された。
駄目かあ……
今救国って言ったよね絶対。
救国を裏でこんな相手に頼む時点で地獄のような意味合いを感じるのだが。
大丈夫かな……
革命軍の旗振りとか絶対やらないよ。
「ええと、救国とは具体的にはどのような案件ですか? 我々はあくまで小市民ゆえ、あくまで戦争の手引きのようなことは出来ないのですが」
「もちろん、そのようなことを他国の者に頼むわけにはいきません。そもそもワタクシが行おうとしているのは、内乱ではありませんから」
少しだけほっとした。
こちらの反応を見る目付きだが気品さは崩していない。
そう完全に生まれつきしつけられていることをうかがわせる。
「なるほど。内乱ではないとすると、告発ですか」
「正確には、そのために情報を集める仕事です。順に話させてください。ここまでに何があったのか……本当は配下たちも連れてこられればよかったのですが」
「……その、アール・グレイお連れの方って……」
「ええ。私を行かせるため散りぢりに。一体どれだけ生き残っているのかもわかりません。旅路の危険もありましたが、それほどまで追い詰められるほど追手はひどかったものです」
「後で地図を使って詳しいお話をお聞かせください」
アール・グレイはすぐ承諾してくれた。
仲間が死んでいるかもしれないけれど気分が落ちているような様子はない。
この辺境まで来る時に覚悟が決まったという良い目をしていた。
正直遺体または無事な配下は回収しておきたい。
彼の話の裏付けというのもあるが……
蘇生できたらしておきたい。
そこはジャグナーがうまく配属してくれるだろう。
「私は、我が名誉にかけて王政の不正を暴き、真実を民に知らしめ、相応しき王を見出せねばならないのです。私はまだ若き身で我が国で暮らしていた身ですが、諸外国と比較して浮き出た問題点と、そこから計算した時に出た不正疑惑、なおかつ決定的な王政の腐敗証拠。これらをさらに理詰めし刃と変えねばなりません。血ではなく、言葉で国を変えたいのです」
「しかし、王政となると権力がなければ批判はともかく変化の兆しにするのは困難なのでは?」
「権力に関しては安心してもらいたい」
アール・グレイはそう話すと首からさげていた飾りを取り外す。
その先には1つの宝石を鮮やかに飾り付けたものが。
まるで何かのマークみたいだが……
そのままアール・グレイは行動力を流し込む。
宝石が淡く輝き壁に向かって光が放たれる。
国家に使われるような竜の紋様と共に何か文字が現れる。
ちょっと失礼してアール・グレイに"観察"。
そして彼の使う言語をラーニングして再度その数字を見た。
そこには10の文字。
「これは、王位継承権を持つ物にしか反応しない王家の宝具……ここに刻まれた数値は10。第10位階王位継承権保持者だから、例え王位継承権最末端とは言えその発言は無視できません」
「と、ということは……アール・グレイさんは王子!?」
「いえ……ワタクシは辺境伯の息子です。しかし、ならわしとして王家に連なる血筋で、前王の時王位継承権を得られる年齢に達していない者は、次王の王位継承権を得ます。ワタクシは王からすれば、いとこ違いです」
「えーっと……王様からしたら、親の兄弟の孫だったかな」
「ほとんど他人だろうに、律儀なシステムだな……」
今回はそのシステムに救われたわけだ。
彼は今国内で実質王子たちに類似する権力をもっている。
普段は振るえないぐらいの立ち位置だが非常時に効いてくるわけだ。




