百三十八生目 妖精
九尾と別れをつげてアヅキと私それに新しくトランスしたドラーグを連れて荒野の迷宮へと戻ってきた。
もちろん空魔法"ファストトラベル"でのワープだ。
ドラーグの新種族『デムクラ』は早速その力を見せてくれた。
「それじゃあいきますね……えい!」
迷宮特有の2つの月に照らされたドラーグはそう言うとその月が作る私の影へと飛び込んだ。
するとまるで水面のように揺れたあとドラーグがいなくなったのだ。
影の中に潜ったのだ。
影は光の作り出す暗闇でしかない。
物理的に何か水のようなものがあるわけではないのに驚きだ。
影の中から声が届く。
「こっちはなんだか快適ですよー」
「これは……便利だね」
ある程度の大きささえあれば入れこめてしまう力。
奇襲だの盗み聞きだのしほうだいである。
さらにドラーグの言うとおりに私とアヅキの影を重ねる。
「移動完了しました!」
「なるほど、今は私の影にお前がいるわけか」
「みたいだね」
アヅキの言う通り声が響く影がアヅキのものからになった。
見ためは変わったところがないからズルすぎる。
影から攻撃は出来ないらしく1回完全に出なくてはいけないのが唯一の弱点か。
そんなこんなを試しドラーグがスキルを解除しようとした時に魔力反応が突然現れたのを感じた。
私達のすぐ近くにだ。
攻撃性は感じないがアヅキと私も警戒する。
「ドラーグちょっとまって、何かが来る」
「え? あっはい」
警戒していると地面から草がにょきりとさいた。
つぼみをつけふくらむ。
……そして何かを吐き出した。
その何かは出てきた途端におしゃべりを始める。
「ピルチルピルピル」
「チュピピルピルピル」
出てきたのは小さい人型のようで虫の薄羽を6枚背中から生えている生物だった。
だが見た目や気配のそれは動物というより……植物だった。
互いに何かを話し続けているようだ。
"観察"。
[ドライドLv.22]
[ドライド 植物の実から産まれる魔物で妖精とも言われる。かわいらしい見た目に反して扱う魔法は強力]
「ピピピ!」
「ピ? ピペェ!?」
私達を見つけ何やら興奮している様子。
交戦か?
身構える。
しかし彼等は身を引いてなにやらバタバタと身振り手振りしている。
万能翻訳機を持つアヅキが何か聞き取り気づいたようだ。
何かを伝えようとしているがもしや戦闘意思はないとか……?
少し時間がたつと片側が何かを使ったらしく瞳が輝く。
う、頭が何かの攻撃かのように痛む。
いや、何かを私に伝えようとしているような?
アヅキも同じらしく頭を押さえていた。
雑音が聴こえ始めそれが徐々に形をなす。
何かを探るように音程が聴こえ徐々に意味へと変わっていく。
これは……私の自動言語学習の感覚に似ている?
『………て……
………い……
き…………
…こ………
……え…………
………………
聴こえていますか?』
そしてまるでピッタリとハマったかのように音が脳内に響く。
"私"……ではないよねこれ?
(ちがう、明らかに目の前の妖精からだね)
植物で出来ていて硬そうながら触りたくなるようなすべすべさを持つ妖精たちか。
頭の髪の毛のようなものはよく見たら葉なのか。
通じたのが向こうにも分かったのか嬉しそうにしている。
『突然お許しください、私はドライドというものです。
実は最近この土地に来られた貴方達にお願いがありましてやってきました』
お願いとはなんなんだろう?
「アヅキの方にも同じように言葉が?」
「はい、お願いがどうのと」
「同じだね」
ええと、こういうのって返事とか出来るのかな。
『コレでいいですか?』
『はい、問題ありません』
「アヅキ、強く念じればこっちからも届くみたい」
「わかりました」
アヅキは万能翻訳機があるからいらないだろうけれど一応ね。
外部からの頭痛は収まっているが自動高速言語学習の頭痛はおさまっていない。
アヅキも瞳を閉じて何かを念じているようだ。
『え? あ、はいっいえっちょっと、そんな御無体な! ちょっ、ちょっとだけでも! お話をぜひ!』
なんだかアヅキと揉めている気配がある……
アヅキはなぜかドヤ顔しているが何か余計なことしていないかな?
『え、ええととりあえず、私に話してみて』
「あっはい! ぜひお願いします! いやそんな忙しいって……いえ! そんなつもりでは、あぁ、それは!」
うん、話進まない。
「アヅキ、いいから話は聞いてみようよ」
「え、よろしいのですか!?」
「うん、別に問題ないからちょっと静かに」
なんだか言いたげだったか中断し再び瞳を閉じたようだ。
『え? あ、はい! それはもちろん! えっいやまあ……いえ、ありがとうございます。
……コホン、それでは話させてもらいます。
実はあなた達の噂を見込んで頼みたいことがあるのです』
『噂?』
『ええ、風のように突然やってきて多くの者を返り討ちにしつつも会話を介したりまた助けてもらったりした者も多いと聞きました』
詳しく聞くと彼らは私達をずっと探していたらしい。
問題を抱えていてそれを解決出来るかもしれない相手として。
ものの見事にすれ違い続けていたけれど。
『それで一旦諦めて帰ろうと近くまで魔法でやってきたら……鉢合わせてしまいまして』
『それでさっきああなったんだね』
『はい、驚かせてしまってすみませんでした』
……あ、言葉が分かるようになったみたいだ。
頭痛が収まった。
「能力で言葉が分かるようになったし、普通に話すね」
「あ、噂は本当だったんですね! それでは――」
「おお!! おお!! 実際に言葉がわかるようになるだなんてスゴイ! カンドー!」
念話的なものをしていなかった方の妖精が私と話してテンション高く飛び回った。
一方念話らしきスキルを使っていた子は苦笑い。
何ともこのふたりの間柄がわかる。
「ごめんなさい、いつもこんな感じの子でして……」
「よし、じゃあボクからも伝えられるようになったみたいだし移動しながら話そうよ!」
そう言って私の目の前まで飛んできた。
うん、やはり近くまで来たのを見るとニンゲンとはあまりに遠い。
植物なのだろう。
「あ、そういえばドラーグ、出てきていいよ」
「そういえばもうひとり竜がいたって聞いてい……ひゃあ!」
「あ、こんばんは」
アヅキの影からガバリと飛び出してきたドラーグを見てふたりはビビリ身を寄せ合った。
驚かせるつもりはなかったんだけれど、まあ怖いよね。