三百三十四生目 精霊
たくさんの翅に光で構成されたまるで編み込んで垂らした長い髪のようなそれは融合体テテフフがあったものからより幻想的に。
虫の複眼は無機質な冷たさを放っているはずなのにまるで私たちに優しく語りかけるかのよう。
その蝶のようは魔物の虫姿は融合体テテフフの大部分を引き継いでいるが細部に宿るは神。
感じる威厳は本物。
神々しく神力を纏ったそれがゆったりと椅子に座り。
どこかで見たのか王としての礼儀通り肘掛けを使って腕をたて顎の方へ手をおいた。
思わず空気に飲まれうごけなかった魔女たちはやっと息をするのを思い出す。
アカネやハックみたいにある程度強い者はそこまでではなかったもののやっと一息つけるぐらいは緊張したらしい。
背中の翅は本体にくっついていないのを良いことに背もたれを避けた。
『ふむ……これが私たちではなく、私になるということ……なかなか面白い感覚だ。記憶や知識ではあるが、実際になってみないことには、感情が違うな』
「えっと……」
「……あなたは、どちらなのですか?」
『どちら、とは不思議な質問だ。邪神か。善神か。はたまたア・ラ・ザ・ドと称された神か。テテフフという魔物か。そんな問いには意味がない。なぜなら……』
バローくんが冷や汗をかきながら行う問いに実に感情の起伏をかんじさせない念話が返される。
念話で発音するのはテテフフだが……
テテフフの時に使う言い回しグセが軽くなっている。
だが敵意は感じられない。
ふわりと立ち上がり軽く宙に浮かんだ。
『私は収穫の精霊神、アラザドだ』
私のそばにいたりバローくんのそばにいるらしい精霊たちがにわかにざわめいたような感覚。
声も姿も曖昧でわかりにくいが……
喜んで……いる?
「わっと!?」
「あわっ!?」
精霊たちが私たちの元を離れた!?
すぐに飛んでいき精霊の女王を讃えるかのごとく飛び回っている。
アラザドはそれに反応するかのように体を揺れ動かし左右を見た。
私にもはっきりとはわからない……
けれどなんだかとんでもない数が集まっているような。
一体どこから……!?
「ん? ふたりとも、なにか?」
『精霊たちが、私の元へ来ただけだ。ふたりには少しは見えるのだろう。心配するな、精霊たちは、私を構成する伝承が気になっているだけだ』
その言葉通りなのか私の精霊たち含めすぐに帰ってきた。
アラザドの周囲から精霊たちらしき気配が消え……
代わりに今度はアラザド自体が光に溶け込むようにしていなくなってしまった。
「「え!?」」
『案ずるな。伝記通りの力を振るっただけのこと。まだ手探りでな。私の中にある新たな情報を、こうして処理している。魔女たちよ、広場へ行こう』
砂漠のほうでは。
私の視界情報をローズクオーツにつなげていたためリアルタイムで同じ情報を知り得た。
だからなのかローズクオーツはほっと胸をなでおろす。
「よかった……あとは先生なんだけれど……」
ナブシウは自爆したと状況的に思える。
分神だが分神には操作者の心をつないでいる。
自爆は死なないだけで死ぬほどの苦痛を味わうはずだ。
それを指し示すかのようにローズクオーツが念話をつなげようとしてもなかなかナブシウから返答がない。
果たして本当に無事なのか……
「わたくし、黄金砂漠の迷宮へ直接見てきて――」
「はぁ、さすがに我が神のようにはいかぬか……少し魂が気絶するとは」
「――あっ!」
風に乗った砂の向こう側。
影が1つ歩いてくる。
そこには。
「まだここにいたのか、ローズクオーツ」
「せんせーっ!」
ローズクオーツがナブシウの頭へと飛び込む。
もうナブシウは封印状態に戻っていた。
この状態ならローズクオーツのほうが大きいのだが……
ガンッと硬質同士がぶつかり合う鈍い音が響くけれどナブシウは揺れることすらない。
「良かった……! 生きてた……! あんな爆発、本当に大丈夫だったか不安で……」
「ローズクオーツ、邪魔だ。分神ごとき燃やしたくらいで死ぬわけがなかろう。ただ、ほかはそうはいかんから、早く癒やさねばならない」
「あ、す、すみません!」
慌ててローズクオーツはナブシウから離れる。
ナブシウはいわゆるジト目のような尻尾振りをしながらも進んでいく。
ただいつもどおり全速力でも遅い。
「ただ、癒やしって一体……確かに地形はひび割れていましたが」
「先程作った壁によって抱え込んだのは威力だけではない。私自身はよく分からんが、効能として大量の汚染物質をばらまくらしい。単なる生物たちには猛毒となり、精神をきたし、やがて治らぬ病をかかえる」
「なんでそんな技使ったんですか!?」
えーっと……やはり核爆発みたいなものを放ったんじゃあ……




