三百三十二生目 菓城
ローズクオーツ視点。
そこでは後ろを気にしながら全力で飛び去るクオーツの視界だ。
「あ、ローズオーラ様? 今わたくし――」
『分かってるから、備えて!』
『――あ、はい……えっ』
振り返るさなか。
一瞬世界の明暗が逆転したかのような景色の変化。
そして。
世界が割れるかのような轟音と共に世界の色は戻り。
かわりに今はるか遠くに有る地点からすらローズクオーツは空気の衝撃を少しもらい吹き飛ぶ。
核爆発か何か!?
その中心地……やたら耐衝撃やら耐精神被害やら固めた壁たちが砕き落ちる。
その僅かな時を耐え忍んだらしい壁たちは中から僅かな煙を吐き出した後崩れる。
今の凄まじい衝撃と違って周囲の被害は驚くほど少なかった。
箱が役割を果たしたのだ。
まず炎はどこにも広がらずすぐに消炎されたらしく煙も消える。
次に周囲の大地はひび割れ崩れたところはあるもののまるで地形ごとなくすかのような衝撃だったのにもかかわらず無事。
しかし今の爆破はまさか……
「な、ナブシウさん!? テテフフさーん!?」
少し離れた場所に目をやればテテフフたちがわっと空に舞っている。
融合していなかったテテフフたちが本能的に地震から危機を感じ飛んでいるのだろう。
ナブシウの言ったとおり近距離ならローズクオーツも危なかった。
だが……
融合体の方は……ナブシウは。
ローズクオーツもそう思ったらしくすぐ見に行くと……
箱の中には何もなかった。
「ええっ!? 分神? ですっけ、それもいない……?」
『もしかしたら、分神を自爆させたのかもしれない』
分神で真なる姿を取ることで自爆した……?
成功なのか失敗なのかわからないが……
こちらは信じるしかない。
だってもうこのタイミングでラストなのだから!
戻って広場。
私は空を飛んでから……
輝く銃ビーストセージをうまく広場の方へ向ける。
まだ動きながら撃てるほど器用じゃないぞ!
だから最接近してほぼ真上上空につく。
イバラを中に入れ両手で持って構える。
地面へ向けて照準をしぼるように合わせ……
訓練した通り。
魔力爆発!
「「発動」」
破裂音と共に地面までカーブを描くような不可思議な光が落ちて。
魔法陣中央へと刺さる。
ホルヴィロスが血の方はどうにかしてくれたあとだから……
後は転生魔法が発動しナブシウによって邪念を押し切ってア・ラ・ザ・ドを滅したことを信じるしか無い。
それが今できる最大の……
勝算!
「「ハウスオブスイーツ」」
魔法陣が発動しあたりが異常な空間にねじまがっていく。
光が包み魔法陣たちは唸るように回りもはや空間を線が埋め尽くす。
それは1種の神域で。
「「降臨を祈り、迎えよ」」
観客だった者たちが信じられないような面持ちで。
だからこそ強くその光景の先を信じる。
収穫の精霊神アラザドの降臨を。
空間はどんどんと変化していく。
まずは魔女や観客たちの立つ場が不明細になり……
そのあと骨組みのような細い光たちが走る。
その線は一瞬でこの場すべてを覆うような大構造を描いていき。
さらに色付けされていく。
薄っすらと構造の色がつくとまさしく幻想世界のように物質が面白いように構成されていった。
もりもりと地形が生まれる。
クッキーの床が。
スポンジの壁が。
ありとあらゆる想いが形となり。
ありとあらゆるお菓子になっていく。
観客たちが大広間側へ閉じられていくのを見ながら……
私たち魔女は玉座近くにこれた。
視界を"鷹目""見透す眼"で遠隔から見ていくと。
この広場がみるみる作られていく。
飴細工の塔たちはまるで夢をそのまま描いたかのような美しさで。
チョコの門は魔物たちも安心魔法素材で出来ていてかじっても破れない。
城壁はアイスなどの氷菓子と共に盛られ上に生クリームが匠の技術のように乗せられて。
あっという間にお菓子の城が出来上がった。
「…………な……ぁ……」
「……こんな……」
「…………ゆめ……?」
もはや観客だったものたちはみんな唖然としている。
私たちはこの玉座の方で待ち構えている。
転生した神を待つために。
「成功、したのか?」
「そのはず、だけれど……私たちは、待つしか」
空席の玉座はこの世のあらゆる贅を尽くしたお菓子の席。
もはや何で出来ているのかすら想像できない。
つまりこれは『理想上のお菓子』の集まりなのだろう。
異様な程にピリピリとしたそして静かな時間がすぎる。
そして。
「……これは!?」
「何か、来る……けど」
姿がない力がここに集まってくる。
玉座の方に姿がない何かが。
成功か……失敗か……?




