三百二十八生目 呼出
アノニマルースでの会場は篝火にかこまれ炎と闇夜が溶け合う。
光があれば精霊は見えない。
光がなければ目が見えない。
私やバローくんみたいな常にわかっているタイプはともかく宗教上そうなっている。
この作り出された不可思議な光の空間はまさしく宗教上精霊を迎えるのにふさわしい。
「すごい……」
「おお……魔法陣が出来ていくが、一体どこまで?」
ホルヴィロスが最初の魔法陣を展開していく。
私たちは魔法陣の展開順に合わせるよう箒を振る。
箒を『杖』として古いコアを輝かせ魔力を送っていく。
共同魔法化してありホルヴィロスが導くので私たちは魔力を注いでいくだけで序盤はできる。
さて。
本番はこれからだ。
「どこからか音楽が……」
「なんだろう、ドキドキしてきた」
バックヤードから音楽が拡声され流れ出す。
弦楽器や打楽器が場の空気を底上げしていく。
民族楽曲風だが神聖さが技量によって上乗せされている。
なにせ音楽に関しては前々から準備していたからだ。
お祭りなんだから音楽くらいないと! という魔物やニンゲンたちがもともと準備していたのを……
無理言って前日こちらにも頼んだ。
それなのにさすがの腕前で雰囲気に合う曲を演奏していてくれる。
耳から入る音がこの場の雰囲気を飲ませるかのようだ。
においもそう。
篝火は木材の燃やすにおいだけではない。
香木のようなものも混ぜている。
ディラフィラの占いの館で使っているものを教えてもらいグレードを上げたものを競売所で買い落とした。
ごく自然に少しずつにおいが入り交じるはずだ。
甘いのにどこか頭が冴え渡りそうで場の集中度が1段増すかおりが。
「……魔法陣安定化、定着、そのまま結合。よし……」
『第1段階終了したよ』
『第1段階終了了解、第2段階以降どうぞ』
『了解、第2段階移行』
『『第2段階了解』』
裏では常に念話が飛び交っている。
スタッフさんたち。タイムキーパーさん。ホルヴィロス。魔女たち『舞手』。
ズレないことでブレない舞台を作り上げるしかない。
「……エネルギー始動開始」
ホルヴィロスの小声と共に私たちはバッと一斉に動く。
マントが翻りちょうど客席の方を見るように姿勢を直す。
息を呑むように見守る観客たちの目が私たちを射抜かんばかりに輝いていた。
「収穫の精霊神アラザドへ捧ぐ」
私が大きく声を出し身構える。
魔女たちみんなも同じように構え。
――舞う。
「「寛闊なる尊き趣よ、夢想たる一時の華よ、赤き痛みを避け、昏き苦味を防ぐ」」
魔女全員で唱えていく。
箒を使った舞は光の跡が少しの間残っていく。
軌跡たちは不可思議な紋様を描いていき私たちは打ち合わせどおり"同調化"で合わせつつ各々動いて行く。
けして激しい動きではないがあえて互いにすれ違うように踏み込む。
まるで熟練のような動きを見せつけているがスキルともとの基礎能力で押し切っているのみ。
バローくんみたいにあんまり運動が得意でないものは自然に横へ逸れて脇を固めるように動き。
私やアカネあたりは中央で軌跡を混ぜ合う。
箒の踊りは独特だ。
特に唱えながらとなるとまさしく一種の儀式に見える。
「引き込まれちゃう……」
「真ん中のふたり、すごくきれい」
「あ、魔法陣が!」
私たちに視線が向いている間にも魔法陣は動いていく。
力を合わせることでテテフフのところで作った魔法陣よりはるかに巨大なこれもスムーズに動き出し回転が始まる。
回転してエネルギーが高まればさらに魔法釘やポインタに沿って光の線が伸びてゆき次の魔法陣が生まれだす。
私たちが唱え踊ることで魔法陣の動きをおし進めているわけだ。
「「幸福の種よ、大地の根より尊き力を産み出し、今大いなる胎内から生まれでんとす」」
魔法陣がどんどん展開していくほどざわざわと声が上がっていく。
よし……砂漠の方にも動きがあるみたいだ。
「いきなり呼ばれたら何をやらされているんですかこれはー!」
「黙って早く錬金を終えろローズクオーツ。お前の主が作業を終えるぞ。私は我が神のように優しくはしてやらんぞ」
ナブシウがローズクオーツを召喚魔法で呼び出しせっせと錬金しだしている。
しかも材料が異常。
ナブシウが亜空間にしまっていたらしい素材たちとここの土壌がベースらしいが……
明らかに貴重とされる多大な魔力を持つ堅牢な金属たちを扱いそれをベースにして壁を作り上げている。
融合体テテフフの周りを囲うようにできうる限り狭く。
何をするのかはわからないが出来上がる幻想的なまだら色の壁は不壊の神力も付与されていった。