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三百二十六生目 疑問

 ホルヴィロスが魔法陣展開のために本を開く。

 周りの音でかきけされるほどに小さくしかししっかりと声を込めながら。



「……魔法陣展開、開け、想像の扉」


 頼んだよホルヴィロス。

 そしてナブシウ!








 砂漠の迷宮。

 その大きな崖が作り出す峡谷。

 峡谷内で対峙するのは……


「なぜ私がこんな小間使いのようなことを……私を顎で使って良いのは我が神だけだというのに……」


『それでも。ナブシウは来た。信頼がみえる』


 小さな不可思議な犬みたいながらその全身は重金属類な神ナブシウ。

 そして肝心なテテフフだった。

 ナブシウとテテフフは知り合いのペットと叔母という変わった関係。


 だがナブシウが昔から気兼ねなく接せる数少ない相手のひとりだ。

 まあそもそもナブシウのような力と性格でぶつかれる相手はテテフフくらいなのだが……


 テテフフは既に融合した姿を見せている。


「叔母上絡みでなければ来ることはなかった、それだけだ。それにしても未だによくわかっていないのだが、なぜ大量の叔母上を殺し転生させる必要があるのだ?」


 ナブシウが改めて疑問をぶつける。

 多分概要だけ聞いてテテフフをどうこうするのならという部分だけで飛び込んで来たのだろう。


『転生魔法。存在は知っているね』


「我が神には全く持って縁遠いが、さすがに存在は知っている。それで叔母上の1体に邪神が転生し、今度はそいつの寿命が来るから(はした)の神に転生させるのだろう?」


 さすがにそこまでは把握していた。

 テテフフも肯定し念話する。

 ナブシウと"以心伝心"を繋いで共有しているからこそその念話も含めて拾えるのだ。


『そう。今融合したもの。それが神の分』


「1つではなかったのか?」


『元は。しかし私たちは。私たち(・・・)であるがゆえに。神の魂も分かれ受け入れる』


「なるほど、叔母上の生態は群れでわけあっているから……」


 テテフフは群生個体とも呼べる生態をしている。

 群れ1つで意思すら共有しているのだ。

 私達の体が一部ずつまとまってわかれ普通に生きているかのような感覚。


『今私たちは。ここに神の分を寄り集めてある。代謝(・・)する分に。膿をおしつけるように』


「む……叔母上は群れで均一化させるのが大事なのでは? そんなことをしたら神の力が……」


 ナブシウの言葉に呼応するかのごとく邪気のような力がテテフフから発せられ圧となり襲いかかる。

 ナブシウはモロにくらい顔をしかめるものの1センチも動いていない。

 さすがの重量だ。


 邪気は死者か死の術具でなければ纏えない。

 あれはア・ラ・ザ・ドが纏っていた気配に似ている。

 邪神としての力ならば邪念といったところか。


「っ叔母上!」


『この力は。コントロールが効かない。ナブシウの害意に反応し。防ごうともがく。転生魔法を使いつつ。全力で。ここの私たちを(たお)せ。1つの欠片も残さず』


「そんな、分神で……」


 ナブシウは昔テテフフに対して負けたようなことを話していた。   それに叔母上とプライドが変に高いナブシウが呼ぶような相手だ。

 テテフフの想いに応えられるか不安なのだろう。


 しかも分神は能力が大きく落ちる。

 ナブシウが本気を出すための能力はほとんど大きな機能を果たさない。

 

 しかしテテフフは邪念をまといつつもその無機質にも見える複眼でナブシウを見下ろすのみ。


『外に出て。強くなった姿を。見せてくれ』


 ナブシウはハッとしたような顔でテテフフを見上げる。

 外へ出るためのきっかけとなったテテフフの言葉。

 それを思い出していたのだろう。


「我が神に……私がさらなる変化を……見識を広げ、より良くなった私を見てもらうためにも……ここで叔母上から逃げるわけにはいかないっ」


『それと。ダイエットだな』


「叔母上……」


 良い顔になって覚悟が決まったこのような雰囲気。

 テテフフの言葉にもほほえみで返した。

 最初ナブシウなら魔法で融合したテテフフが動かないなら簡単に倒せるという話だった。


 それは私としてもなんとなくわかる。

 うっかり融合が解けてバラバラになっても大丈夫だし。

 ただ今テテフフは邪念が邪魔する。


 うち漏らしたらどうなるかわからない……ナブシウやれるのだろうか。


『一片も残すな』


「叔母上、見識を広め、手に入れたことでやれる事ある」


 ナブシウは大きくため息をつき顔を引き締めて。


「ローズクオーツというヤツを呼ぶ」









 式の完了には時間がかかるとはいえそんなにはない。

 そしてどちらもタイミングを合わせねば使えないから正直かなり焦っている。

 顔や尾には出さない!


 さあこちらの儀式だ。

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