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三百二十二生目 文屋

 大広間での儀式が終われば今度は仮装コンテストが始まる。

 仮装は結構みんな気合入れてきているので今年は評価もしようということとなった。

 我こそはというものたちがエントリーしており次々評価されていく形式だ。


 壇上にも次々とキュート系やイケてる系。

 本格系や自分が邪霊系なのを活かしたものや……

 目も伏せるような名状しがたき冒涜系まで。


 それらを舐めるように最前線で見ている者がいる。

 たんに仮装が興味深い魔物たちではなく……

 執筆道具片手に食い入るように見るもの。


 アノニマルースのマスメディア。

 いわゆるブン屋だ。

 彼女のそばにもうひとり魔物がいる。


「なあ、こんなお遊びのショーもいいが、さっきのはもう書き留め終わったのか? 夜の時間までには配らなくちゃならん」


「もちろん、後は形を整えてもらうだけだからひとっ走り行ってきましたよ」


「走るというか魔法借りてるだけだろうがっ」


 怒られてニカッと笑いながらもその魔物は手を止めない。

 ハロウィンコンテストの様子を書き写しているのだ。


「大広間に来れなかった魔物たちにはたくさん売れそうですねえ。お菓子配り程度かと思ったら、何やら起こる様子ですから、面白おかしく書きあげれば……!」


「まったくギリギリのスケジュールだな、書き写しの能力持ってるやつがいてギリギリだ」


 スキルか何かで書き写しができるやつがいるらしい。

 聞いてはいたがやはりそれがたくさん刷れる理由か。

 ブン屋はニンゲンたち報道ギルドとのやりとりが活発らしくそれで得たのだろうか。


 彼らはきっと先程の説明で何かをかぎとり面白おかしく書いてくれるだろう。

 政府や役所のこともバリバリに批判したりもするところだから腕前は不安視していない。

 常に公開されている役所の話し合いも民衆向けに書いてコラムでは叩いたり褒めたり叩いたりしている。


 眉をひそめる権力者は多くいるが彼らが弱者を殴らない限り絶対いる機関だ。

 コンテストはつつがなく終わりいろんな賞が配られブン屋たちは撤収していく。

 それを見送りつつ私は私の仕事をこなすのみ。


 主にグルシムの気が赴くまま共に歩いて宣伝するだけだけれど……

 グルシムはこういう時信頼できる。

 ちゃんと足りないところに足を運んでくれるのだ。


 やがて日が完全に暮れ月がのぼる。

 グルシムと一旦別れ家に帰った。

 そこにはホルヴィロスがここにいたのだが。


「あ、ローズー! どうかな?」


 ホルヴィロスが化けた姿。

 それは夜闇に煌めく星空。

 マントは夜をそのまま表したような姿。


 体からたくさんのツルが伸び複数の不可思議なものを持っている。

 シルクハットや虫眼鏡やペンそれに小物もろもろ。

 武器も見える。


 だけど頭があるはずの位置に頭はない。

 代わりにツルが持つ1つ脇に抱えているのが……

 その顔だった。


「うわっ!?」


「どう? デュラフィア風コスプレ。みんなデュラフィアたちは見慣れているけれど、私がこのような格好なのはいけると思って」


「うん、びっくりしたけれどすごいと思うよ。気合が入ってる!」


 よく見ると裏からツルが生えてマントの中に消えている。

 実際はつながっているわけだ。


「準備もできたみたいだし、行こうか」


「わかった、他のみんなも準備を終えているはずだからね。ローズと共にデートだ!」


 他の者もいると自分で言っておいてデートとは。






 ホルヴィロスと共に夜の街並みを歩く。

 当たり前だがハロウィンの飾りは夜のほうが映える。

 あちこちでランタンの炎に照らされ恐ろしくどこか楽しげに輝く。


 巨大な赤いカボチャみたいな野菜たちをくり抜き顔を掘って中に火を入れればカボチャランタン。

 それだけでも一気にハロウィンぽさが増す。

 骨ゴーレムであるスケルトンたちはこの日のために完璧なダンスを覚えて各地でみんなを楽しませている。


 ゴーレムといえば今日は休みを出しておいたローズクオーツとノーツをまだ見ない。

 どこにいけば会えるかな……

 ……おや?


 近くに私とつながっている見えないラインの気配がある。

 近づいていけばドシドシという音も。

 これは……!


「なんだかすごい音がするけれど……」


「ノーツかな? ノーツー! ……わっ」


 そこには巨大なロボ風ゴーレムのノーツがいた。

 さらにローズクオーツもいたまでは良かった。

 ふたりが激しく踊っていた。


 ノーツはその全身を邪悪に塗りたくり骨たちをぶら下げ。

 ローズクオーツはまるで月を思わせる夜の衣装を纏い華やかに大胆な舞い。

 ノーツの体に飛び乗ったりとして舞う。


 ふたりとも激しい踊りで骨を鳴らしふわりと布が舞って観客たちをわかせていた。

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