三百二十一生目 精霊
グルシムが話したことはこうだ。
さっき会った彼らコッコクイーンたちは自分と同じ歪められ貶められた上でちゃんと生き抜こうとしているものそれに準ずるものかもしれないと。
神感覚ではそうなるかもしれないが魔物は別に信仰や噂で身がいきなり変化したりはしないからね。
それでどこが同じだと感じたか訪ねたら……
獣の死骸つまりはなめした毛皮を背負っていたことで同族扱いしたらしい。
グルシムは鳥の死骸を背負っているからね。
ただ神じゃないのでもともとそういう変質は起こさない。
厄介な半生を送った仲間かと思ったみたいだが残念ながらまったく関係なくテンションが落ちたわけだ。
昼が終わりを迎えだし夜が抱えにやってくる。
それは常世と彼世を結びつける瞬間。
夕焼けの時だ。
「あ、ここが目的の大広間だね」
「滑稽な命たちが蠢いている」
死の仮装をした魔物たちがたくさんいて自分は場違いじゃないかな。くらいの意味合いである。
私たちはその中に紛れた。
やがて時間が来て光教の教会に居る神父とシスターがいた。
彼らと妥協点を探って協力体制を組んだのだが……
やがて神父から挨拶が始まる。
屋外のため拡声の魔法を使っているようだ。
「みなさん、どうぞ楽な姿勢でお聞きください。これより、歓迎の儀を始めたいと思います」
神父は朗々とした声で語る。
それは自然にみんなの耳に入り傾かせる。
広場の外からも興味をひかれるものが現れるほどに。
おそらく複合的にスキルを駆使しているのだろう。
それと普段説教を教会で行うゆえの力か。
やはり任せて正解だったなあ。
「――として――
――教会から――
――我々は――」
数分間挨拶の文を高らかに響くよう声を出す。
張り上げているわけではないのに遠くまで響くのだ。
「――として、こうしてわたくしたちがここで話すこととなりました。それでは、よろしくお願いします」
「はい」
神父が下がり代わりにシスターが前に出てくる。
凛とした表情で正装した姿だ。
なとこのふたりはさっきまでハロウィン仮想として野菜の被り物していた。
「私からは、収穫の精霊神アラザドと、私たちが信仰する唯一の神フォウスとの関係性を中心に話したいと思います」
光教はフォウスという名の本当にいるかは不明な神を信仰している。
いや私の感覚からしたら本来神がいることのほうがヘンなのだが。
そして唯一神信仰なので本来他の神を神として自己宗教に取り入れることは少ないのだが……
「収穫の精霊神アラザドは、変化していくものを見つめ、収穫を祝う精霊の王とされています」
完全に新たな神話のねつ造だが重要だ。
みんなの想いから神を作り出すには共通認識こそが大事。
そういう神がいるのだろうという強い思い込みのために基礎を撒いておく。
「光教では、精霊とは光から隠れいたずらをする存在とされ、善良なものだとされています。精霊たちはごく一部の者のみに見えるとされていますが、人だった頃のフォウス様も見えたそうです。精霊たちは様々ないたずらを仕掛けましたが、最後はフォウス様たち御一行を迷いの森から出し、友好の証に木の実を渡したとされています」
フォウス教にはニンゲンだった頃のフォウスが弟子をとっていてその弟子が未来に様々な言葉を残したとされる。
それが聖書としてこうして物語が生まれている。
「精霊は全なる神であられるフォウスに同一視されますが、同時に神フォウスも多くは見抜けないとされている不思議な存在です、光を放っても、その光から隠れてしまうからです。精霊たちの多くは謎に包まれ、故に精霊の王が人の王のようにいてもおかしくはないのです」
そして王というのは神と同一視しやすくなる。
特にニンゲンではない相手で詳細不明ならなおさら。
「神フォウスと精霊たちは親交があり、同時に同一視された存在でもあります。精霊の王たちがいて、神フォウスが天へ引き上げたと考えても不思議ではありません。フォウス教の聖典には多くの天の使いや不可思議な存在たちがあらわれますが、その1つであり、収穫の精霊王アラザドは神フォウスが差し伸べられる指先の1つだと考えられています」
他の宗教に登場する神を別の形で自身の宗教に取り入れるのはよくあることだ。
天使の話をしたが悪魔やなんなら討つ悪龍だったりする。
精霊の王としてアラザドをその『有る』と『無い』の狭間へ叩き込むのだ。
「夜に執り行う降臨の儀では、たくさんのお菓子を捧げたあと振る舞い、精霊たちやアラザドと触れ合いましょう。きっと素晴らしい体験になります。神フォウスの威光を、さして光隠れたところにも伸びる助けの手である使い、収穫の精霊神アラザドへ祈りを捧げ、歓迎の儀を終えたいと思います」
シスターが話終え礼をすると喝采が響く。
こうしてシスターの話は好評のまま幕を閉じた。




