三百十八生目 舞手
グルシムと共に準備に向かう。
当日ここまで来たらあとはドンと身構えて置くことが1番のやることだが……
それはそれとしても私達も地道に話を広めねばならない。
「夜の降臨祭をお楽しみにー!」
「帳が降りる時、灰を生む力に誘われ、収穫の精霊神アラザド降臨せん」
「収穫の精霊神アラザドへ、みんなの祈りと楽しむ心、それに実りの季節への感謝を示すために、その糧となる恐ろしいものやなくなった命で彩り、それらを大地へ返す炎で迎えますー!」
「異貌の姿は新たな芽吹き。苦しみや痛みすらも、喜ばしい」
グルシムはグルシム自身からあまりにも外れない範囲で今回用意したセリフを言ってもらっている。
かなりギリギリだが私の声もありなんとかなっている。
雰囲気づくりという面なら完璧だ。
アレンジの範疇だよねうんうん。
そんなことを思いつつ豪勢に木札を配っていく。
本当に緊急だったのでスタッフ以外の周知はまだまだ甘い。
特にアノニマルース外から来るものたちは。
なのでそういう相手を見つけたら即宣伝しに行く。
夜にとある広場で。
大きな催しが行われると。
今頃みんなも手が空いていた者たちは駆け回っているだろう。
そうこうしている間に肝心の場所まで来た。
場所には既にたくさんの飾り付けが行われさらに新しく舞台が用意されていく。
ここに一晩だけ用意するだけのため解体しやすくしてあるが手は抜いていない。
さらにスタッフメンバーたちが本を片手に仕込みをしていた。
「みんなありがとう、どう、間に合いそうかな」
「ローズさん! ええ、なんとか釘打ちは終わりました。ここからが本番ですね」
釘打ちとは建造物のことではない。
夜にここで一大イベントするさいに必要な魔法陣の下準備。
複数でやるつもりなので魔法陣を描く際に目安となる魔石釘をポイントに打ち込んで置くのだ。
さらにこれから空中にもポインタを配置して儀式的に重要な飾り付けも行う。
変に解析されても困るし覆いも増やしより神秘的にするつもり。
とにかく初めの瞬間だけでも『秘匿』しなくちゃいけない。
それがグルシムの話した大事な点だ。
「陳腐な手品は光が当たれば尽きる」
「えーっと……?」
「私達がやろうとしていることは、あくまで神をうまく降臨させる瞬間にみんなの心が変なことを考えず熱中し没頭していることが大事。大掛かりな手品でも、タネが先にみえたら気が散っちゃうし、儀式としての神秘性や品位が落ちちゃうから、神づくりを失敗してしまう。ここで手を抜かずにうまく完成させて本番の時に舞台裏が見えないようにしておけば、きっと多くの魔物たちを感動させられるから、すごい手品にしてね! 応援してるよ! って言ってるよ」
「え……? そこまで圧縮されてました……? い、いえ、わかりました! 俺たちがやりきります!」
「…………」
私がスタッフさんたちに翻訳する。
さすがに手慣れたものである。
スタッフさんたちは動揺していたが。
グルシムは何かを言いたげにこちらへ視線を向けてきて……
そのまま視線を作り上げていく広場の方に移した。
あまり見ないパターンだけれどなんなんだろうか……?
この広場は大きく開いた空間になっている。
その大部分を暗幕で覆いこっそり作業しているのだが……
魔法陣と魔法環境それに神秘的配置を組み立てているはずなのに建築現場みたいな音が鳴り響いている。
神聖な道も地道な1歩からだね。
「私も手伝おうか? 今なら時間あるから」
「いえ! 『舞手』はギリギリまで力を温存しておいてください。本番は過酷と予想されますから」
「わかった、ありがとう」
きっとこれを作り出している彼らは複数で描かなければならないこの大魔法がどれほどまでに重くなるか想像できているのだろう。
むしろ私のほうがうまく想像できていない。
事前想定より規模が大きくなってしまったからちゃんと計算できていないんだよね……
邪魔しても意味がないのでグルシム共々ここから足早に去ることにした。
夜まではひたすら配りまわる。
ユウレンやウロスさんはまた化け物みたいな仮装……というかキグルミで1番ビビらせていたし。
アヅキは祭り特有のゴミ問題のために拾い回っていた。
みんな夜の宣伝もしていてくれている。
たぬ吉は大量の情報処理に追われ裏方に徹し……
イタ吉はなんだか複数の魔物に囲まれていたしほとんど女性だった。
あれはまさしく……ハーレムと言うやつか……!
イタ吉は恋愛面強くなさそうだから振り回されていないか心配になる。
声はかけなかったけど。




