三百十七生目 腐鳥
ハロウィン仕様の魔女っ子私。
ヒールブーツは履くのにちゃんと訓練した。
脚の感覚が結構浮くので慣れるまでが大変だった。
アノニマルースはハロウィン仕様で昼なのに薄暗い。
色のついた結界をアノニマルース内に貼っているのだ。
本来そんなに色付き結界に対して広範囲展開しないのだが今回はわざと使っている。
結界の効果は『中にいる死霊系に祝福する』というもの。
祝福というのは幸福を与えるという面もあるがそこまで強く何かを与えるわけじゃない。
ちょっと調子が良くなったり気分が上がったりする程度。
ただ結界色を通すと中が薄暗くなる。
来訪者たちは1段階暗くなったアノニマルース内で異界の気分を味わってもらうという仕組みだ。
妖精族たちも適当な布をかぶって飛び回っているがそのせいで霊魂っぽく見えている。
アノニマルースは愉快に明るくハロウィンだ!
「アッハハハハ……!」
「いくぞー!」
「トリックオアトリート!」
「どう? イケてる?」
「見てあれ、すごくない?」
「ハロウィンの神、アラザドにと共にー!」
「「ハハハ――ッ!」」
子どもたちや魔物たちそれにまつりに浮かれた大人たち。
みんなどこか邪気じみた格好しながら陽気に歩いていく。
空は曇り鬱気な飾り付けがされ闇夜を呼ぶような誘いがそこにある。
けれど煌々と炎は焚かれるのだ。
みんなどんな祭りかもう把握しているので仮装している者は多い。
頭に斧を刺したように見える魔物なんかもいる。
アラザドとア・ラ・ザ・ドは違う。
他者が発音できない彼自身神としての言語を無理やり我々に発音できる範囲まで落とし込めたもの。
音じゃなくて神力で名前を変換し直接伝えるとかいま思うとすごい自尊心だと思う。
アラザドは普通に皇国語でアラザド。
単語としての意味合いは込めていない正真正銘の普通な名前。
どこの言語だろうとアラザドって発音すれば大丈夫。
スタッフたちに通達し速攻で追記してもらいつつ当日はみんなでアラザドに関して解説してもらうことにした。
アラザドというハロウィンの精霊神を大胆に今から作るわけだ。
とはいえベースはある。
まさしくア・ラ・ザ・ドそのものだ。
ただ彼は地方にいた狂気の呪いを与える地方で祀られていた神。
発狂と異貌化の連鎖呪いをかけるもの。
そして死を。
下地はここにするが現在をすげかえる。
これに関しては身をもって経験した者がいて条件の再現が簡単にできた。
向こう側から無表情なのか不機嫌なのか見分けのつかない獣が来る。
それは堕ちた神であり自らの在り方を否定された上で全てを救おうとした迷宮の深淵に住まう神。
鳥の骸を纏った邪神のような風貌のそれは。
「わー! わんちゃん、すごい気合が入ったコスプレだね!」
……妖精たちが悪気なく声をかけ。
「犬ではない」
「そうなの?」
「グルシムだ」
死後の眠りを護るとされた神。
グルシムだ。
なお彼の尾は死んだように動かないが不機嫌なわけではない。
実際ちょっとアンデッドなのと感情の機微がわかりにくいだけだ。
「そうなのそうなのー?」
「グルシム! しらなーい!」
「じゃあねーグルシムー!」
「次会うときは魂が永く睡る時が良いだろう」
グルシ厶の誤解されそうな言葉は風にのって消える。
彼らはキャッキャとどこかへ行ってしまった。
私はグルシムの元へと歩む。
「お待たせ」
「悠久なる時を待っても、お前にとっては一瞬なのだろう」
大事な部分をすっぽ抜かして悪辣に聞こえる部分を適度悪意なさげに直す。
そのコツさえわかっていれば。
「よかった、じゃあ行こうか」
つまり今のはざっくりいうと「今来たところ」ぐらいの意味合い。
感情の発露に乏しいしあまり発言する方じゃない。
今は半復活もしておらずより暗い雰囲気の幽霊系神様だが……
答えの成否を知りたい場合そこが重要になる。
間違っていればちゃんと反論されるのだ。
怒りさえもする。
今みたいにフイと踵を返し目的地に黙々とあるき出した場合はほとんどグッドコミュニケーションが成立している。
口数が少なく話し方が独特なだけて話下手ではないのだ。
……多分。
グルシムと共に歩いても今日は仮装だとしか思われない。
グルシム自身は一切仮装していないのだが。
そんな現実とあの世の境目が曖昧になるハロウィンはグルシムみたいな神や魔物にぴったり。
堂々と出歩ける彼らが主役だ。
心なしかグルシムも風切って歩いている気がする。
みんな気さくに声をかけてきてグルシム流に返してもそういうテイだとみんな思うだけ。
よくわかっていなくても笑顔で別れる。




