三百十四生目 献上
大魔法詠唱中。
砂糖ではない甘味も結局は地面から生えるものがほとんどだ。
ならば訴えかけるメインの先は地面。
ただしここで私の血液を1滴魔法陣に垂らす必要がある。
自分の針でチクッとやれば1滴だけ垂らせる。
痛いけど慣れてしまったのがこわい……
魔法陣に使うだけなので出来上がるものは聖遺物にならない。
――羽ばたきが多数増えてきてあたりに蝶たちが空に舞い出す。
「亭亭たる樹立の神よ、立ち上がる創造を祝福し美しく聳え立つ事を見届け給え」
建造物を建てる際に神へあれこれ祈るのは世界あちこちよくあること。
これはそこから派生した建造魔法の混ぜもの。
神に訴えかけるのは遠い大地なら多くあるらしいが皇国や帝国それに朱の大地では珍しい。
本が輝き魔法陣たちに力がこもる。
魔法陣たちはゆっくりと回りだし加速して。
大魔法の発動要件を満たしていく。
あたりに力が満ちてきて光と共に幻影が見える。
お菓子の家を仮置しているわけだ。
立体設計図にもなる。
「魔法陣エンジン回転上昇。多重展開高度調整。錬金仮想炉点火開始」
どんどん高く魔法陣を重ねていく。
この数があると高いものを作るときに安定して出力を上げられるのだ。
さらに錬金術を引っ張ってきた。
錬金術は自身の身体でやれば水に反応して沈下し困難となる。
しかしここは乾いた土地。
土地を通して錬金すれば成立する。
錬金術ができないと様々な味わいのお菓子たちを一気に作り上げられなかったのであの時ナブシウとローズクオーツの錬金を見て聞いていてよかった。
生きる道は何が役立つかわからない。
「聖なる輝きは邪な因果を打ち払わん」
聖魔力はようは純粋化が得意。
雑菌を払い腐敗を退ける。
――目の前に蝶たちが募り柱のようになる。
「時を固め、再び巡り合う重なる瞬間まで此処に縫わん」
時間を食べるときまで固めておく。
時がとまったままだとなんの干渉もできなくなるからね。
まるですごいことをしているようだがやってることは急速冷凍に近い。
抵抗力の高い相手には防がれるかそもそもかかって瞬時。
時を止めるものと時を止めるための封印箱が基本セットで必要。
ようは急速冷凍した後の冷凍庫ね。
ただお菓子程度の……つまり抵抗力なんてあるはずもなく別に生きていない相手なら別。
魔法陣の力で覆ってしまえば良い。 暴れないからね。
さらに器用なことに触れればその部位は解けたりする。
この魔法構築を発明したニンゲンは天才なんだと思う。
もう亡くなっているから会えないけれど。
――目の前の蝶柱が太くなり渦巻き高速で回りだす。
蝶嵐だ!
あの中に入ったものはなんであれ蝶の翅でミキサーのように切り刻まれる。
「集うのは願いッ、輝け魔法陣ッ」
急げ急げ!
締めの言葉によって魔法陣たちが強く輝き出す。
魔法陣回転ももはや分間何十も何百もしているところがある。
そして蝶嵐は勢いを増し目の前まで来ている。
「発動、"ハウスオブスイーツ"!」
私は『杖』にしている銃から1発軽く放つ。
今度はちゃんと至近距離で地面に撃っただけなので外す不安もない。
軽くトゲが魔法に刺さり『杖』として最後の力を発揮する。
魔法陣が発動して光が生まれどんどんと地面から実体が生まれていく。
それは1つの塔。
ひたすら甘そうな飴細工で造られた1晩で溶け尽きそうな甘い塔。
それはまさしく蝶嵐とぶつかるように立ちふさがり……
今衝突した!
一気に甘い匂いが放たれる。
時間停止が解けたのだ。
この飴細工の塔はたくさん作ったパターンのひとつ。
この魔力で造られた品は正確には魔力で出来ていない。
むしろ完成品は単なるお菓子。
一見手間に見える工程を踏んでいる。
具体的には魔法の植物を種から作り出し一気に成長させ収穫しそれを材料に糖を抽出して……と加工を踏んでいる。
生クリームなどの動物油脂がいるものはまた別の工程だが動物側はそれはそれで別工程を踏んでいる。
無から魔法で直接完成品を生み出すと途方もない魔力が求められ効率部分も悪い。
工程をふんだほうがローコストかつ魔法特有の一時の夢を回避できる。
魔法で作ったものは魔力が尽きれば後々消えやすい。
食べたのに消えるのはむなしいもの。
構成が魔力ではない本物お菓子をテテフフたちにも食べてもらおう。
……というか献上品がないと私を私と認識してくれないだろうし。




