百三十六生目 上限
さあ、超能力の『念力』特訓だ!
違った、空魔法"フィクゼイション"の特訓だ。
やることは念力のようにものを動かすということだ。
本来の動きを止めるという趣旨からはズレるが明らかに出来たほうが便利だからね。
幸い"無尽蔵の活力"が ガバガバと使う行動力をグングン回復してくれる。
なので遠慮なく練習にぶん回せるわけだ。
「へぇ〜、本当に石が空中で止まってる」
ドラーグが移動しながらの私の特訓を見て感動していた。
投げた石ころが空中で静止している。
いかにも不可思議な光景だが歩きながらこいつを私と同じ速度で動かしたいのだ。
それだけでも出来ればだいぶ進歩なのだが……
だんだんと私から遅れてゆき後ろへと行ってしまった。
うーん牛歩。
次。
今度はこうやって力を込めて……
「うわっ!? 飛んでいった!?」
いきなり遥か彼方に石ころが飛んでいってしまった。
違うのだ、そんなに加速したかったのではない。
めちゃくちゃである。
少し少しの違いがこれほど難しいとは。
この魔法の感覚である大量のスイッチはレバー調整し徐々に動かせるものでは無い。
どちらかといえばオンオフだけの同じようなスイッチが大量にあるように思える。
実は5km/時の速度を指示するスイッチかもしれないし前進を指示するスイッチかもしれない。
100km/時で空高く進む事を指示するスイッチかもしれないが見た目の違いがない。
1つ1つ覚えるしか無くてぶっちゃけ大変。
「ようし、今度こそ」
「ドキドキ」
集中、集中と。
石を弾いて浮かせる。
ここだ!
魔法が唱えられて石が空中で静止する。
この後に……さっきはああするとダメで……こっちでもダメだったから……
ここか!
「え!?」
「む、回り出しましたな」
垂直方向にスピンしだした。
なんでやねん!
――あッ!
勢い余って何かを入力してしまった。
スイーー……
なぜか今度は歩く速度で真っ直ぐ進みだした。
「おお、できましたね!」
「へぇー、さすがローズ様だ」
「ど、どうも……」
まだまだ練習が必要なようだ。
戦闘と探索をくりかえして鍛えつつも見て回った。
かなり効率よく回ったが1週間ほどかけてもまだ未探索エリアがある。
まあニンゲンと違って1日の半分以上は寝ないと無理が来るから仕方ない。
ドラーグは適正な相手と戦い続ける事になったおかげでメキメキ鍛え上げられた。
レベル14から19になって大躍進だ。
にしても本当に成長が早い。
あれかなドラゴンは戦闘種族だからみたいなものあるのかな。
タカがとんでもなく強かったという面もあるだろう。
不安だったメンタル面は改善されつつある。
思考の切り替えをうまくできるようになり戦闘中は集中して終わった後に弱音をはいた。
ドラーグらしくていいと思う。
戦闘スタイルも身に着いてきた。
不意打ちスタイルとでも言うべきか。
最初見た時は大きく存在感があるがいざ戦闘に入るとアヅキや私が目立ち忘れられる。
『大きいからどこにいてもわかるだろう』という感覚がいつの間にかドラーグの気配を見失わせる。
認識していたはずなのに気配を消していたドラーグが不意の攻めを見せるわけだ。
強い相手でも不意の攻撃は効く。
気づいた時にはもう遅い。
相手は地に伏しあとは囲んで叩く。
そんなはドラーグのおかげで私もレベルが上昇。
レベル10から15へ大幅上昇。
"率いる者"で私の知らないところで戦う仲間たちから少しずつもらえているのだろう。
ドラーグを通してもらう分もおいしい。
5ポイントのスキルの振り分けはこれを取るために使うとしよう。
[指導者 自身が経験を得たさいにその値を絆で繋がるものに一部送り続ける。そのさいに元手は減らない。また他者への補助魔法が強化される。指示を受ける側は"指導者"を持つ者の意思を汲み取りやすくなり指示を理解させやすくなる]
"率いる者"は受け取る側だったが"指導者"は送る側になっている。
これも5ポイントの消費だ。
味方が多ければ多いほど利点が増えるタイプは便利だ。
絆があるというやや曖昧で確認しづらいという弱点はある。
ドラーグやたぬ吉はあるという判定だが熊や平原の魔物たちはダメだ。
確認していないが元いた群れのみんなは多分絆があるだろう。
やはり双方ある程度の関係を持たないとダメなのだろう。
まあ分かっていても難しい点だ。
間柄なんて深まるのはある程度は時間がいるからね。
ちなみにこのスキルは"率いる者"の隣にあった。
スキルツリーはやはり関連性の高いものが繋がりやすいのだろう。
この調子で拡張し役立てていこう。
さて実は今戦闘中である。
とは言え私達が抑えていた気配を探り当ててやってきた弱い相手。
"私"任せでだいたい終わっていた。
ドラーグが何か猿のようなゴリラのような魔物に見事なアッパーカットを決めていた。
見事に浮いた後に地に倒れノックアウト。
戦闘終了だ。
「おつかれさまー」
「お疲れ様です! あ、力量上がりました!」
「確か20だったか? あっという間だな」
"私"とバトンタッチして思考にふけっていた私が前面に出る。
肉体の操作権を取り戻しドラーグとアヅキに声をかけたらどうやらまたレベルが上がったらしい。
あれかな完全にドラーグの時代がやってきたのかな。
「あれ、これ以上力量があがらない……そうです」
「力量が上がらない?」
「はい、これで限界でええと、トランスが出来るようになったそうです」
20でレベルが止まりさらにトランス可能になったのか。
私は少し憶測していることがある。
レベル上限とその種族の強さだ。
ホエハリは30ほどでレベル上昇が止まる。
そしてドラーグのムラリューという種族は20だ。
そして魔物によっては60を越えてもレベルが上がり続ける。
決まってやたら高いレベルを誇る相手は挑む気すら起こさせないほどに絶対的な力の差を感じさせる。
つまりはレベル上限の高さはその種族の比較的な強さを表しているのでは?
と思っているのだ。
もちろんだいたいの判断になる。
レベルはその種族内での強さを表すとは言えこうやって参考になるわけだ。
少なくとも無策で突っ込むよりは参考になる分良い。
で、ドラーグが20で止まるのは逆に言えば将来性が期待できる。
さてさてトランス先か……
「どんなのがあるの?」
「あ、はい。ええとですね……
ひとつ目は『バハル』ですね。
ふたつ目が『グラムラ』。
みっつ目が……」
「ちょっと待って!? 複数あるの!?」
ドラーグの話によるとトランス先がいくつもあるらしい。
しかも……
「名前は分かるのですが細かいことはわからないんですよね……」
「ええ、それは困るやつだね」
私は調べてもらったからな……
ってそうか!
「調べてもらえばいいのか!」
「え、なんですか?」
「……ああ、なるほど、あのキツネですね」
というわけで早速転移である。
"ファストトラベル"をもちいてやってきました。
九尾家です。
さっそくブザーを鳴らす。
「こんにちはー」
「なんじゃ? ってお前か!」
「お邪魔しまーす」
「あ、どうも……」
久々に九尾に会えた気がする。
ドラーグがかしこまる中早速通して貰った。