三百十三生目 寛闊
アヅキが『ファミリー』を作っていた。
恐いやつ。
その後あれこれ話したがやはり恋愛のケはない。
やはりアヅキの種族特性がやや足を引っ張っているのか。
その……男児がスキという。
『それに本命にはまるで振り向……うぅん! なんでもありません、では、業務に戻ります』
『ありがとうアヅキ』
念話で油断して本音が漏れたな……
アヅキの本命って誰だろうか。
まさかまだバローくんを……?
バローくんはフクロウっぽいトランスしたニンゲンで最近は急激に成長している。
既に体格も良くなってきていてアヅキの好みではない気がしたのだが。
まあ別の相手かもしれないし……うーん。
他人の恋バナは楽しいものとは言うけれど変に夢中な自分がいる。
まあ恋バナのはずがファミリーの話をされたしもう探りまわるのはやめるか……
誰かと会った時にそれとなく聞こう。
こんにちは私です。
そろそろ『趣味は読書です』といえるくらいは調べ物したと思う。
自作の大魔法を創っていたものがやっと完成しそうなのだ。
ハロウィンに間に合ってよかったと思う。
ピッタリな季節だからね。
まだハックにも言っていない。
驚くぞ……!
魔法創作にはこれまでの知識技術こそが大事になる。
歴代の著名家たちが何に挑みどう失敗したのか。
魔法構成そのものから本の愚痴まで。
思わぬところで実は化学とぶつかっていたりして魔法分野の面々がつまずく姿が見られた。
私はどちらかといえばそちらのほうが得意なのでうまくこの世界の感覚とすり合わせ……
ついに出来たのは。
「大魔法、お菓子の家……!」
どうせ作るなら戦いになんも役立たないようなやつがよかった。
だからこそお菓子の家を作る魔法。
要塞を作る魔法も飲食物を加工する魔法も作り出す魔法も。
保存加工する魔法も堅牢化する魔法もあるのだがそれら全てをひっくるめた汎用性ゼロの魔法。
とっても素晴らしい!
意味のわからない機能をたくさんつけたせいなのと初作成ということも相まってたくさんのバグ潰し大変だったなあ……
まともにお菓子の家ができないならまだしもお菓子っぽいのに食べたらお腹を壊す家とか。
お菓子の瓦礫山とか。
ああ……あれが大変だったな。
お菓子の家が出来たかと思ったら生きていて動き出した。
意味がわからないバグで何日も魔法構成を見直したっけ。
ついでに聖魔法"リザレクト"の大幅見直しに成功した。
生き返らせる大魔法だがあまりに使いにくい。
準備もキツかったし……
なので"リザレクト"専用の杖……
魔法陣で構成された本を作り出した。 完全にお菓子の家副産物だ。
この本があるだけで"リザレクト"の効率が跳ね上がる。
どこまでかはわからないが……
少なくとも前みたいに1部屋を埋め尽くす魔法陣を凄まじい時間かけて用意する必要はなくなった。
明日ついにお祭り……つまりお披露目会だ。
今町中は最終仕上げとかかりみな祭りの準備に追われている。
今年はもう邪神もどきを呼び起こす心配もないだろう。
久々に会いに行ってみようかな。
自宅から空魔法"ファストトラベル"で会いに行こう。
テテフフに……そして転生させたア・ラ・ザ・ドに。
ワープしてしばらく歩けばたどり着く。
崖下のテテフフたちの居場所。
大量の蝶々が崖にそってびっしりと住まう地だ。
私は大魔法を行使する。
目の前の蝶たちが飛び立つ前に。
まずは1つの本を出す。
魔法はたくさん失敗があった。
「魔法陣展開、開け、創造の扉!」
私は銃ビーストセージをイバラで持つ。
本は勝手に空中へ浮いてどんどんと勝手にめくれていく。
中身は大量の魔法書き込みと魔法陣。
自動的に展開できるようにしてあるので規則通り魔法陣が地面に描かれていく。
光が一瞬でどんどん地面や壁に描いていくのだ。
「魔法陣安定化、定着、そのまま結合。エネルギー始動開始」
線が出来上がってきたら地面になじませ魔法陣同士をつなぐ。
蝶たちの羽ばたきはじめが聴こえる……
「寛闊なる尊き趣よ、夢想たる一時の華よ、赤き痛みを避け、昏き苦味を防ぐ」
まずはオーソドックスな詠唱。
お菓子作りから始めよう。
銃ビーストセージを祝福し『杖』として扱い素早く唱えていく。
「幸福の種よ、大地の根より尊き力を産み出し、今大いなる胎内から生まれでんとす」
砂糖は芋から作ったほうが効率良い。
調べたらこの世界でも似たものがある。
あまり広まっていないが。




