三百十二生目 家族
イタ吉の爆弾発言でその日はお開きになった。
私が唖然としてしまった。
イタ吉に……子ども!?
今時間が過ぎて思い返すがあの時慌てて色々問いただした気がする。
ただ詰めすぎて返ってきた答えは少ない。
「そりゃ、俺だっていい年だから相手くらいいるさ。逆に遅いくらいだ。他のメンツもいるんじゃないか?」
「結婚……っていっても俺にそんな文化ないしなあ、たくさん相手候補はいるけどな」
「というかお前がしらないだけで、何名かもうくっついてるんじゃねえ?」
というある意味ドストレートに当たり前な答えだった。
魔物たちは結婚しないどころか一夫多妻をつくったり子どもをもうけたらそれっきりだったりは当たり前。
我がホエハリ族が終身一途タイプすぎて雷を受けたようだった。
私がトップに立っていなくてよかったと思う。
私なら衝撃の内に結婚制度をガチガチに固めていただろう。
アノニマルースは別に婚姻制度がないわけではなく種族ごとに柔軟なだけだ。
あと付き合っている段階から知らなかった。
結構話しているのに!
結構話しているのにッ!
当然お祝いもなにも準備していないしそもそも付き合いの話もしてもらってないから全く心の準備が出来ていないというか……
これが神としての世俗から切り離される感覚!?
……いや全く関係ないな。
くっ……イタ吉がなんだか仕事のデキる雰囲気をただわせていると思ったらそんな大きな変化が……!
それにイタ吉の言う通り私が知らないだけで複数の知り合いが付きあい発生しているのかもしれない。
たかが5年ほどと侮っていたのはまだニンゲンの感覚だった。
魔物で! 5年は! むしろ! かなり遅い!
みんなもう3年あたりから付き合い出しているのかもしれない。
ジャグナーみたいに少し時間のかかる魔物はともかく。
なんだか一気に獣の年齢という部分が押し乗ってきた。
別に私は誰かと付き合いたいみたいな欲は今の所ないが……
私達はたった5年でそれほどまでに歳をくってしまったということ。
そういえば蒼竜もなにか私の寿命対策云々行ってたなあ……
こんなニンゲンなら子供の年齢でどんどん尽きてしまうとは。
ううーん私もみんなもあっという間すぎて実感がわきにくい。
死にたくはないし死んでほしくないがそれはそれとして彼等が生きたいのかみたいな部分もあるし。
もしあれなら転生の魔法とかで……?
まあ。まあ。
まあそこはまだ先の話として……
みんながくっついているかどうかって話だよ!
お祝いぐらいさせて!!
アヅキと念話して。
『いえ? 別にまぐわう相手はおりませぬが』
『なんだか一気に安心した……』
アヅキはあっけらかんと答えてくれた。
いきなり私だけ時間感覚がズレ歩みを止めていた錯覚に襲われていたがなんとか落ち着いた。
別に子供がいることが歩みそのものではないが周囲の変化を感じ取れていなかったことそのものが距離だと思ってしまった。
イタ吉にとって単なる地続きな感覚で生きていたため冒険も恋も聞かなければ雑談とでしか聞けなかったわけだ。
今度根掘りは聞いてやる……
『ああ、でもファミリーという意味ならばおります』
『ファミリー? 家族のこと? アヅキって兄弟がいたっけ』
『一応はおります。彼等に今は血族の縁を求めていることはありませんので、主の言う家族の定義には当てはまりません』
なんとなく理解した。
つまりアヅキと同じ親から産まれはしたが……
別に普通の魔物のように兄弟で群れを分かれていったということだ。
『なるほど……それじゃあファミリーって?』
『ファミリーについては、そうですね……前、主が森の迷宮がバランス崩壊し自然の摂理で循環が乱れたと話しておられましたね。それは私どもが消えたせいでもあると』
アヅキが話したのは昔あったことだ。
アヅキが過去ただの強盗カラス団だったころは暴れまわっていた副産物でパワーバランスが保たれていた。
力と力の殴り合いによる冷戦に似た落ち着いた環境だ。
しかし強盗カラス団はやぶれ散った。
そのせいで今度は抑えられていたコカトリスという魔物が大暴れし……
それはなんとか抑えれた。
しかしパワーバランスは崩れたままで迷宮内の者たちで何とかしていく方向に固まっていたのだが。
『なので、私が再び森の迷宮に赴き、今度は本格的な我々の種族組織を創り上げ、森の目となったのです。それがファミリーと言います』
『……え?』
『ファミリーは森中を影で締め上げ、森全体を脅かすような行動へ常に目を光らせています。危険な相手は事前に警戒し、どこかの勢力が他の勢力を滅ぼさないようにバランスを保っております。もちろん我らファミリーの種も……』
ファミリーってサングラスかけたこわい集まり的なファミリー!?




