三百十生目 事故
じわじわとひび割れた結界が直っていく。
これで世界の端は大丈夫だろう。
「俺たちも外の世界直接見てみたかったぜ。宇宙だったんだろう?」
「下手したら死んじゃうからやめたほうが良いよ……」
「ははっ! そのためにも結界はこのまま直すだけでは良い案とは思えないね」
蒼竜が笑いかけると同時に私の乗っているエネルギーを送り込める板に向かって腕を差し出す。
そしてそこから神力で構成された腕が飛び出した。
私は驚いたがイタ吉には見えていないらしく無反応で純粋な神力で出来ているようだ。
「そーくん、何を……?」
「せっかく直すんだから、前より頑丈にしようか! 誰かさんがバカ力で放っただけで壊れてしまう世界の果てなんて、ふさわしくはないからさっ」
「う……わ、わかった。でも、もうあんなの撃たないし……」
より壊れなくするのは賛成だ。
ただ私の言葉を聞き蒼竜は肩をすくめ否定の首振り。
「もしもの時に加減して戦う気かい? 世界が壊れることに気を使って戦い勝てるような相手なら良いんだけれどね」
「う、うーん……」
さすがに即答できなかった。
今度どのような相手が来ようと私やアノニマルース軍が余裕で勝てればそれに越したことはない。
ただ世界はそこまで甘くはないようだ。
攻戦ならともかく防戦だと拒否権もない。
「それに、世界の故障は世界の歪み、あんまり増やすと本格的におかしくなっちゃうから、複雑化して神力衝突が起こらないようにしておこう」
「なるほど……ところで、その本格的におかしくなる例って、どんな?」
「僕が知っているのでは、その地域は時間が停止してしまい侵入も脱出も出来なかったね」
ひえぇー!?
想像以上に恐ろしい事故が起きていた。
そんなふうになるだなんて絶対に世界の故障を増やしてはならない。
「それは……絶対に故障を出さないようにしないと」
「よくわかんねえけど、ヤバそうだな」
「ちゃんとやってやれよー」
「ほら、多重に結界構造をはって……世界の境界に複雑なコートして、真っ直ぐ突っ込んでくるものがあるくらいで不具合起こさないようにしてしまおう」
「なるほど……こうだッ」
蒼竜の話や神力による補助をうまく使ってこれまでのとは違いバグりにくい世界の果てを作り出した。
神力と龍脈を用いているためすぐには出来ないが……
1週間ほどで出来上がる予定。
これならば安全だろう。
「よし、これでなんとか……あれ? イタ吉たち、もうひとりのイタ吉は?」
「うん? そういえば……」
「おっ、あそこにいるぞ」
イタ吉がいつの間にか2匹しか同じ場所にいなかった。
イタ吉が指す方向を見ればそこには小さなイタ吉。
ただしその手に資料を持って。
「って勝手に触ってるし!」
「まあ、これならさすがに良いだろ? お前が書き直したっぽいし」
「まあそうだけど……イタ吉ってそういう資料なんて読めたんだ」
あの棚にある資料は全て私が皇国語に直しわかりやすくしたものだ。
イタ吉が本を読むというのがなんとも不可思議な光景に見える。
言っては何だがイタ吉は前線で暴れているイメージしかない。
その想いが伝わったのか資料から顔を上げ怒り顔を向けてきた。
「お前なあ! 俺の職業なんだと思ってるんだ、ギルド長だぞ? 普段どんだけものを見ていると思うんだよ」
「ああ、言われたらそうかあ。ごめんごめん」
「ま、ガラではないって思われるのはわかるけどよ……オモシロさに気づけば、それも冒険なんだ」
イタ吉が資料に再度目を落とす。
それっぽいことを言えるような経験を積んできたというわけか。
あそこにかいてあることでイタ吉に読まれて困ることはない。
他2匹に目線を配ると頷いた。
彼等も本をとって読みだしたようだ。
静かになったうちに……
「じゃあ、今の間に世界の果て全域やろうか。神力は再度たまっただろう?」
「うん、チャージが早いのだけはとりえだからね」
世界を覆う世界の果て結界を次々と強化していく。
蒼竜はあくまで補助しかしてくれない。
私の神力が足りるようになるまで何度も休憩を挟んだ。
その間無駄口挟まないような間柄でもなし。
なんとなく気になっていた話も聞いてみる。
「そういえば小さな神と大きな神って言うのが別れているけれど、あれってどういう分け方なの?」
「ああ、そう分かれて呼ぶことはあるよね」
大神と小神……
"観察"などの文字面ではよく聞くものの明確な定義を知らない。
というかそんなのあるのだろうか。
「何か意図があって呼び方が別れているのかなって」
「まあ、一応はね。簡単にニンゲンみたいな言い回しをするなら、小神は貴族、大神は領主さ」
意外にもかなり分かりやすい答えが返ってきた。




