三百八生目 硬弾
「うわ、まだ進んでるな弾丸」
「なんとなく想像はしていたけれど、これはエゲツないね……」
私とイタ吉は世界の果て付近まで飛んでいた弾丸を追っている。
確かに私は真っ直ぐ撃つように希って撃ったけれど限度がある。
ナブシウが振るった刃に斬るという概念が付与された刃は少なくとも物質ならなんでも斬り裂いてきたから恐ろしさはわかっているつもりだったが……
私自身がこんな形で携わり振り回されるとは思っていなかった。
あの撃つとき浮かんだ文字は気の所為ではなかったか……
しばらく駆ければ違和感のある場所につく。
身体が押される程に向かい風が吹きすさび……
草木1本すら生えなくなっている。
「ここが、世界の果て……」
「そうだぜ」
「ほんとやべぇ!」
「掴まらせてくれ!」
尾刃イタ吉はともかくちいさいイタ吉たちは今にも吹き飛びそうだ。
イタ吉がイタ吉に捕まっているという奇妙な光景が広がっている。
「世界の果ての壁は……」
「もうちょい先だぜぜぜぇ」
風のせいで小イタ吉が口を開くだけでそこに空気を叩き込まれている。
大変そうだ……
そのまましばらく進んでいく。
5分ほど進んだところだろうか。
何か強烈に嫌な予感が走った。
これは魔物としての危機感ではなく……
……神としての危機感?
「も、もう少しで壁が……」
「イタ吉たち、ちょっとここで待機してて!」
「お、おう?」
イタ吉たちを置いて素早く壁の方へ駆けていく。
やがて見えてきた。
見えてきてしまった。
壁が。
世界の果ての壁は透明で結界のようなもの。
そこは見えないはず。
けれど私が近づいて見えてしまった。
壁に大きなヒビ。
まるで画面がおかしくなったかのようなモザイク。
周囲に散るような滲むモザイクを視界に入れる瞬間に"影の瞼"が降りて……
「うわっ!?」
一瞬視界が狂ったかのようになり足がもつれひっくり返ってしまった。
"影の瞼"で防ぎきれなかった……世界の故障だ!
さすがにここまではっきりされればわかる。
目の前に私がギリギリ通れそうな穴と地中から跳ね上がったらしい弾丸。
トゲがダイヤモンドのような硬質に覆われていた。
これは"ダイモンドブラスト"……?
いや"ダイモンドブラスト"は砲撃のようなものだし使用後なくなってしまう。
あくまで口径はハンドガンくらいだし私のトゲが覆われている。
集中していたらスキルが応用していたらしい……
ちょっと不可思議な現象だから回収しておこう。
そして……だ。
この弾丸と壁がぶつかりあって対立し最終的にどちらも壊れたと。
この先に……いけるのか?
ニンゲンたちの記録にも世界の果ての向こうは記録がない。
まあそれはそうだ。果ては果てだから。
しかし今壁は打ち破られた。
世界の故障を出来得る限り5感から外しつつ……
穴の向こう側がどうなっているのか。
見える範囲では吹き荒れる砂嵐と砂煙そしてなにもない大地が広がっているのみ。
私も冒険家のはしくれ。
……興味がないかと言えば嘘になる。
踏み込んで穴の向こう側へ。
潜り込むように1歩。
踏まこもうとして空を切った。
はえっ!?
「……!?」
声が響かない。
景色が切り替わるように暗闇に包まれ。
代わりに遠く輝く光たち。
無の空間……宇宙!?
息ができない! だめだ!
「ッ」
1歩下がって。
息を飲んだ。
そして……荒く息をつく。
「ハァ、ハァ……」
危険な地帯から離れ息を整える。
世界の壁があんな……宇宙に繋がっているだなんて。
内側から見える景色は幻覚か。
……"鷹目"で視界をこの結界を通して見よう。
外側から見た景色。
私達結界の内側は……
それは強い光を放つ物質。
遠くどこまでも続くような不可思議な光。
何よりその物質が1迷宮分広がり……
それが少し遠く離れた場所に1つ。
さらに遠くに1つ。
そう……
宇宙に浮かぶ光の数だけそれがあるように見えた。
「これは……すごい……」
宇宙という概念がおかしくなりそうだ。
星なのか……ここは……?
大量の小さな星々がこんなふうに世界として形作られているのは。
さらに迷宮の謎が深まった気がした。
「それはともかく」
あたりに散っている世界の故障。
空いた宇宙への穴。
もちろん私はどうすればいいかまったくわからない。
だから。
「助けてくれー! 蒼竜ー!!」
蒼竜は叫んだところで絶対に来ない。
ので。
蒼竜に直接"以心伝心"で事情を伝えイタ吉と一旦戻りアノニマルースでしばらく待つ。
結果的に言えばそこからまる1日待った。




