百三十五生目 信徒
敵ではない。
同時に味方でもない。
ハイエナたちとの関係はソレでいい。
私たちは遠くから来た事と別に滅ぼしに来たわけではなくて住めるところが無いか探しに来たという旨を説明した。
今度は素直に聞いてもらえたらしくおとなしい。
ヒーリングと無敵の組み合わせバンザイ。
「まあ、そんなわけでそれじゃさような……」
「待って! 待ってください!」
ハイエナリーダーが叫んだ。
こちらとしてはもう用はないんだけどね。
夢見も悪くならなさそうだし。
「大地を揺らすほどの力に、死んだはずの配下を蘇らせる慈悲の心と我々の理解を遥かに越えた技! ぜひ我々も共に!」
「え!? ええと、ほら、他のみんなは?」
しまった、対話するために"ヒーリング"と"無敵"を同時かけしたら殆ど交渉なんてしていないのにこうなったか。
普段はむしろ逃げられることが多いのに!
何が悪かったのか。
「わたしも行きたい!」「おれも!」「すごくつよい!」「なおしてくれてありがとう!」
「わわッ、わかったわかった!」
14匹によるわたしもおれもコールを受けてしまった。
まあ戦力としてはうれしい……かな?
「まあでも、今はまだ探索中だから必要になったらお願いします。それまではここでいつも通りの生活していてください」
「わかりました、絶対ですよ! 仲間の命を救ってくれた恩を返させてくださいね!」
少し重いぐらいハイエナリーダーに詰め寄られた。
まあとりあえず彼等は待機だ。
まずは探索をしなくては。
……野生生物から『恩を返す』だなんて発想が出るとは思わなかった。
ハイエナたちと別れ再び元の目的地へ向かう。
そこまで時間はかからずたどり着けた。
見下ろせば遠くまで常にどこかに魔物たちが潜んでいる様子。
先程のハイエナもそうだがどうやら物凄く強いということはないらしい。
比較的棲むには苦労はしなさそうだ。
ならば良い土地を見つけねば。
「よし、ここは見て記録できたから行こう」
「ローズ様ー、次はどこへ行きます?」
「うーん、とりあえずあっちで」
明確な位置は決まっていないので走ってレーダーの地図埋めが優先。
光魔法"ディテクション"のレーダーで自動的に書き込まれる地図は一度記録されれば後に見直せる。
正直遊んでいても地図埋めが出来て楽だ。
ただ詳しい地形はやはり近くまで足を運びなきゃ行けないから今の作業はそれに当たる。
高めの所から探せば手早く記録出来るのもいい。
ドラーグに抱えられ空からまわるのは却下。
まず魔物たちの強さをはかるという点もある。
こうして歩いている間にも魔物たちに絡まれるがそこまで苦戦しない。
それとお空怖い。
やはり地に足をつけて調査しないとね!
空からはビビリ過ぎて調査にならないのが目に見えている。
それならしっかり歩いたほうが良い。
地形が地形なだけに天然の洞窟があった。
やたらデカく中はほどよい湿度。
たくさん草やキノコが生えているね。
「今日はここらへんで休もうか」
「わかりました、一度帰りますか?」
「いや、ここで休んでここらへんがどういう魔物の動きがあるかみたいかな」
「ふぅ〜。やっと腰がおろせる……」
アヅキの言うとおり空魔法"ファストトラベル"で一度群れに帰ってもいい。
しかし今回は調査が目的なので、さすがにまともに休めない所で将来腰を据える気は無い。
多分大丈夫だとは思うが……
保存してあった食事をしてぐっすりと休んだ。
おはよーございます、夕方です。
本当はもうちょっと寝ていても良かったのだが違う時間帯にも動いて見たかった。
「それにしても……」
「大丈夫……」
「なんでしょうか」
実は真昼頃に洞窟の中へやってきたものがいた。
それは高さにして5m以上はある巨大な魔獣。
全身を深く長い毛で覆われて顔の形すら分からない。
かろうじて見えた目はこちらを確かに見ていた。
その白っぽい毛玉とあわや対立かと思いきやそのまま毛玉は寝始めた。
どうやら相手にもされなかったらしい。
まあ魔物は腹が膨れていればこのようにおとなしいやつは多い。
逆に飢えている奴らとエンカウントすれば戦いになるわけだけれど。
ここまで大きいと食べているのは肉じゃなくてプランクトンとかじゃあ? とも思わないでもない。
詳しいことはわからないが狩りは行われず今でもぐっすり寝ている。
特に私達が仕掛ける理由も無くそっと洞窟を後にした。
ちなみに魔獣のレベルは60。
もしかしてここらへんの主か何か……?
さて移動してひたすら探索する時は暇である。
魔法で色々自動化しちゃっているからね。
なのでこの貴重な時間は練習にあてる。
空魔法はとにかく便利さと不便さがセットなことが多い。
なので練習次第では化けるとおもっているのだが……
練習を行うのはみんな大好きな『念力』というやつだ。
[フィクゼイション 空間を抑え込み動きを封じ込める]
1ミリも念力感のない説明文の魔法だ。
しかし使ってみて分かったことがある!
まず普通に使ってみる。
対象を転がるリンゴだとする。
唱えるとギュっとリンゴの周囲が抑えられるようになり動きが止まった。
ちなみに生き物相手だと抵抗されるしパッと唱えるには今のままではやや遅い。
しかし魔力をためてアレンジ可能にすればこの固定した空間ごと移動させられるのでは?
そうおもったのだ。
実験するとなるほど確かに難しい。
ようは空間がリンゴを手のひらで持って動きを止めているような感覚だったから動かせそうとおもったわけだ。
ただ練習するうちに手のひらというよりアームで掴んでいる感覚だと分かった。
ようは私が手元でボタン操作するように固定した空間を動かせるわけだ。
しかしまあちょっとした移動ならともかく360度の3D空間を自由に動かそうとすると難易度が跳ね上がる。
手元に用途不明のボタンがたくさんあってどれならどう動くか分からない。
気をつけないとリンゴが固定空間から抜けちゃったり空間に潰されるから余計に大変。
要練習。