二百九十九生目 負担
私に示されたのはガンナーという能力職業だった。
私の分身を召喚した彼の姿が脳裏によぎった。
この職業の条件は。
銃を何でも良いので手に入れること。
一定の機械知識を手に入れること。
今から遠隔から相手が少なくとも怪我するような攻撃を何度か与えること。
見事なまでに1つも満たしていない。
遠隔攻撃はすぐにできるがあとのはなあ……
機械知識に関しては何がいるかが脳裏の隅にタスクみたいにわかる。
銃……はどうするか。
「んで、どういう能力職業なんだ?」
「射撃する銃武器を使うみたい。針を変化させたイバラを使う私なら、かなり扱いやすいと思う」
イバラで持てば特にかさばらず射撃が出来るし確かに選択幅も広がりそうだ。
とりあえず能力職業についてみないとなんとも言えない。
どんな職業スキルが得られるのかも不明だし。
「……あれって、トゲなのか?」
「うん? イバラのことならそうだよ。トゲを植物のように変化させているだけ」
「い、イバラからトゲをはやしているんじゃなくて、逆なのか……」
「鎧もそうだよ? あれもトゲ」
「何っ!?」
イタ吉たちが驚きのポーズをとった。
もしかしてイタ吉たちには別物に見えていたのか。
「他には空を飛ぶ時のハリもそうだよ」
「なんでそんな、種魔士じゃないのに幅広い応用が……」
「進化のおかげだね。今は小さな神になって素で応用できるけれど」
「なるほど……じゃあ、もしかすれば俺の爪も……」
イタ吉たちは自分の爪をじっと見る。
確かにイタ吉たちの爪ももっと変化球があるのかもしれない。
まあそれはイタ吉のマジックパワー次第だ。
私はとにかくこの条件を満たしてみるしかない。
ならば行くところは……
後日。
こんにちは私です。
よく考えれば銃というものに私は縁がないわけではなかった。
アノニマルース内にある大樹林。
昔は巨大密林ぐらいで済んでいたのに龍脈の力が噴き出す龍穴は恐ろしいくらいに植物たちへ力を与えていた。
多分世界でもレアスポットじゃないかな……
ここにある1つの大キノコ。
おばけキノコとしか言いようのないサイズのこれは私が近づくと隠蔽魔法が解けて扉が現れる。
それを私が魔法で解錠。
そのあと周囲をきっちりチェックしたあとに開く。
中は階段。
入った後裏から施錠した。
そのままずんずんと進んでいって少し行くとキノコ床から変化し不思議な硬い床。
白く清潔なこの床を進むと。
やがてまるで前世の地球屋内みたいな光景が広がる。
清潔で機械的な空間。
私の持ち込んだ土埃の足跡すら今自動調和反応により床へ吸い込まれるように消える。
何ヶ月かに1回足を運んでいるけれど来るたびに成長しているなここ……
特別な手順を得て奥へ進めば管理室までエレベーターで直行。
アノニマルースにあるものよりも遥かに高度だ。
たどり着けば私がここに来た最初よりもはるか高度に技術発展した部屋が待ち構えていた。
「HELLO、ローズオーラ様。ログイン完了しました」
「今日は作って欲しいものがあって」
「承りました」
自動音声案内AIの声が部屋のどこからともなく響いてくる。
相手によってはすぐに切られる機能の音声案内だがもし私でなくてもここの管理が出来ることを考え作成してもらった。
高度な技術は既に技術が技術を生み出していく水準に達している。
私の前に空中ウインドウが現れ一気に文字情報が表示される。
UIの濃さをわざわざ半透明にしたり乱れる感じを増す者もいたような気がするが私はしっかり背景が濃くあるのが見やすい。
前世の記憶はなくとも知識を引っ張り出す過程でこういう変な事は思い出す……
昔はちまちまとタブレットをタップしながらやっていた作業も私が意思を込めて見ているだけでどんどんと情報が更新されやりたいことがやれていく。
こちらの世界でも似たような機構を真似できれば楽だけれどあまりにもオーバーテクノロジーすぎる。
まだこの迷宮を公開するかどうかも悩んでいるのに。
ここの資産を私が独占する気は起きないほどに膨れ上がっている。
ただ逆に言えば外界に負担をかけかねないほどの資産。
何が引き起こされるかわからない。
黄金の砂漠迷宮の危険性は宝物系統の希少性がひっくり返されることで。
ここ地球の迷宮は未知すぎる技術によって技術力がひっくり返されかねない。
入れるとしても少しずつだ。
今の外界技術で全く解明できないならともかく外界は過去に滅んだ文明技術を使うことになれている。
たかをくくるのは危険だろう。




