二百九十七生目 秘書
イタ吉がランダムで決めた先は種魔士だった。
またなんとリアクションすればいいかわからない職業だ。
イタ吉も中身を理解したはずなのに微妙にわかってなさそうなリアクション。
「種魔士はどんな職業なの?」
「この本によると、種族ごとの魔法を覚えて使いこなしたり、自身に取り込んだ種族ごとの魔法をより強大化する……らしいぜ」
なるほどわかったようなわからないような。
たしかイタ吉は自分の種族魔法スキルで爪を巨大化させ切り裂く事が出来るはず。
そして私の"針操作"と同じ感じならばレベルがない。
最初から感覚的に扱え同時にそれ以上にはならない。
あくまで身体感覚の延長線上で他のスキルみたいに身体感覚プラススキルレベルで飛躍的に能力向上は見込めないのだ。
恐らくはそれをより強く激しく発展させるための職業だろう。
私の考えをまとめて伝えるとイタ吉も肯定する。
「ああ、今頭の中で情報をまとめていたが、大体そんな感じみたいだぜ」
「その職業を得るにはどうするの?」
「種族魔法を使う相手から種族魔法を用いた攻撃を何度か受ければ良いみたいだな。攻撃じゃなくても喰らうもんならなんでもいいらしい」
なるほど当たれば良いのか。
それなら簡単だ。
「イタ吉、"防御"して?」
「は?」
私が身体のあちこちからニコニコしながら針を出す。
さっとイタ吉の顔色が変わった。
"針操作"で射出!
「うおわあぁ!?」
急いでイタ吉が"防御"して身体を光で覆い……
針たちは踊るように空で舞った後にあらゆる方向から刺さる。
イタ吉は思わず全身の毛を逆立て……
「痛っ! ……くない?」
それもそうだ。
針操作であんなに細くした針を光ほぼなしで先も多少丸くしたのだ。
つまようじより刺さらないのに"防御"されたらコツンと当たるだけ。
針たちはバラバラとその場に落ちた。
「ビビった……いきなり何すんだよ!」
「何って、今イタ吉が自分で言ったじゃん。種族魔法が当たることって」
「ああ、そう言えばあの針も……ってそういうことじゃねえ! 先に言えっ! 秘書もビックリしているじゃないか」
まあいたずら心があったのは否めないけれど。
えへっみたいな尾の動きしたら冷えた真顔で見られた。
ちらりとみると秘書さんも若干アワアワと慌てていたような様子が見られる。
そこは……ごめんなさい。
「申し訳ありません、私とイタ吉はいつもこんな感じで……」
「聞いたことは……あります。昔のアノニマルースで、遊びと称してアノニマルースを使って戦闘にしか見えない速度で駆け回り飛び回って弾きまわると……実際目にすると驚きますね。取り乱して申し訳ありません」
なんだか尾ひれがついた噂になっているが……
半ば本当な部分があるからなんとも否定しづらい。
向こうがニコリとするならこちらよニコリと返すしかない。
はしゃぎまわっていた頃のアノニマルースは今よりも遥かに小型だし。
私達は飛んでいたわけじゃなくて屋根を駆けたりしただけで。
そこまで大した行動はしていないし普通に迷惑がられ怒られてもうやっていない。
たまにこうしてふたりで会った時にラフな扱いするのが限度だ。
「まったく……おっ? これは……」
「もしかして、種魔士になった?」
「いや、たしかに種魔士になれそう、なれそうなんだが……」
イタ吉がなんだか歯切れ悪く話す。
どうやらただ条件を満たしただけではダメなのか。
かなり重要なことだ。
グレンくんの勇者解除条件は他の職業になるというのも含まれる。
つまりサムライにならないと勇者は解除されない。
「イタ吉、その本にはどうやったらその後なれるかどうかも書いてある?」
「さっきまでのだとわかんねえが……」
「覚えている中にはないなあ」
「もっかい読めばわかるか?」
「なるほど、じゃあ読むか」
尾刃の方のイタ吉が再度本を手に取る。
そして恐らくは成り方について調べようと本をめくり……
一気にパラパラとめくれる。
「……?」
「イタ吉、どう?」
「ちょっと待て……」
「よし、なろう!」
「あっ、バカ俺!」
止まったページを見て2匹のイタ吉はとまどったが1匹だけすぐに何かを承諾したらしい。
本が一気に輝いてイタ吉たちを包む。
私も眩しくて思わず"影の瞼"が降りて視界を守る。
一気に光が膨らんで。
その後に本と光が閉じた。
ど……どうなった!?
「イタ吉、どうなってるの?」
「お、おお……」
「……イタ吉?」
「おっしゃー!! 新しい力があふれる! 種魔士イタ吉様だ!」
「「おおーっ!!」」
うわ一気に騒がしくなった。
どうやら成れたのはわかったもののワイワイガヤガヤしだした。
秘書さんの方に目をやると見た目は平然としているが身体の端が震えてて手が落ち着かず混乱しているのだけはわかった。




