二百九十二生目 運搬
たくさんの魔石たちは魔法陣を使ってチャージできた。
ただ……おかしいな。
確かに私はそんなにめちゃくちゃ多くはないはずなのにたくさんあった魔石たちはどれもこれもチャージを終えている。
効率化……はたしかに重要だがそもそも100の残量を使って150をチャージできない。
私はまだまだ神化して自覚が薄かったがもしや神になって思いの外行動力残値が伸びている?
確かに他の神たちも対峙した感じでは行動力の消費を気にするような立ち回りを見せられたことはない。
だとしたら……今私に足りないのは出力かもしれない。
"地魔牙砕"は強いが特定条件下でしか使えないし別に行動力を大放出して大打撃を与えるスキルではない。
魔法系も大小消費の差はあれど私が日々いじくり回しているせいで元の魔法だとは思えないほどにどれもこれも最適化されている。
そう……効率良くしつつ今度はさらに1撃の重さをただ溜めるだけじゃなくて大放出するような力が必要か?
私の今使っている魔法は簡単に言えば節水用バブルシャワーヘッド。
少ない水で結果的に大量に水を浴びれる感覚にされている。
そのバブルシャワーヘッドを維持しつつ時にはそこから元栓を大きくひねってドバーッと出せたら……?
「何考えてるか知らんけど、片付けるぞ」
「おっと、そうだった」
イタ吉につつかれ魔法陣の片付けをする。
魔法陣はハードウェアと言ったが当然ハードウェアなので盗まれる危険性がある。
ハードウェアが盗まれれば中身である魔法や技術というソフトウェアも盗まれる。
この魔法陣の元自体は皇国の基本仕様を買ったものだがかなり改築してある。
魔法内容もオープンソースのをいじくり回しているためオリジナルと言えなくもない。
魔法陣作成自体が骨の折れる作業で材料をたくさん使い費用がかかる。
そのため使えば隠蔽し秘めてそのまま持ち帰ったりもする。
地面を掘られるだけで盗まれるようなものは常設魔法陣の設置としてただしくない……と昔苦笑な失笑をいただいたこともあった。
昔から馴染みのある商隊が魔法陣の設計図を売りに来てこちらの扱いがおかしいことに気づいたのだ。
なので魔法陣を使うアノニマルース気温調整陣は今では地下施設に秘匿されている。
バカ正直にエリアを魔法陣で全て覆う必要もないというのもその時知ったことだ。
ハードウェアは小さければ小さいほどそれはそれで機能的とされるということだろう。
もちろん詰め込むと今度は効率や排熱ならぬ魔法陣の副作用が大きく発生する。
魔法陣ごとに副作用は違うのでこれと断定することはできないが変換された『空になった魔力』といえるものが漂うことがだいたいある。
酸素を取り込んで二酸化炭素を吐き出すのと仕組みは同じで効能も似たようなものだ。
つまりあまりにも空になった魔力がただようと魔法陣が不完全な機能になる。
必要な要素を周囲からちゃんと取り込めなくなるのが原因らしい。
そして不必要な空になった魔力を出す先がなくなるので新しく魔力を取り込めなくなり……と悪循環。
そこらへんの効率をうまく考えるのが魔法陣づくりのコツみたいだ。
というわけでこの充魔力魔法陣もかなり改良済み。
片付けの際も発動時も複数の隠蔽があり写し取れないようになっている。
魔法陣自体も『魔法陣を一時的に魔石に取り込む魔法陣』を使って魔石に吸い取らせた。
魔法陣を取り込むための魔法陣はいわゆる鍵。
それぞれの魔法陣に対応する符号みたいなものをあわせておかないと一切吸い取れないため危ないやつがあちこちで奪い取る心配はいらない。
……だからこそ地面を掘っただけで取られる対策ではだめなんだよね。
「よし撤収」
まだ元気な私がグラハリー風の姿になる。
大きくなって全身を針鎧で覆った。
トゲなしイバラを伸ばして荷台にくくりつけゆっくり歩んでいく。
当然のようにイタ吉は荷台の方に乗った。
ガラガラと音を立てながら荷台を引いていく。
「まったく、元気が有り余ってるじゃねえか」
「まあ、このぐらいなら……」
「普通はこれをやったらヘロヘロになると思うんだが……それより、やっぱりその姿は目立つよな。何度か見ているけれどさ。金色を纏った魔物だからなあ」
正確にはにぶい金色だが目立つか目立たないかで言えばやはり目立つらしい。
夜道は街明かりと月光により私を照らすため昼間よりむしろ照り返しが目立つ。
せっかく目立つんだったらキュートにかっこよく映えてくれると良いんだけれど。
「どう? イケてる?」
「……よく考えたら、その姿と普段の姿を同じローズだと思っているヤツは少なそうだよな」
「あれ? そ、そう」
なぜか違うところに話が飛んでしまった。
おかしい……少なくとも見栄えは悪くないはずなんだけれど。
解せない。