二百九十一生目 充魔
こんばんは私です。
今私はどこにいるのかというと……
たくさんの石に囲まれ座らされて居ます。
「よーし、用意はいいかー!」
「もちろん」
「ローズ、使いすぎて気持ち悪くなったらすぐに引っ張り上げるから、その前に言えよー」
イタ吉たちは3匹ともスタンバイしている。
その魂ひとつ身体は3つの姿にもだいぶ見慣れたけれどちまちま動き回るのはなんだか昔を思い出して良い。
今日はタバコを吸っていないしここは禁煙区画の外。
タバコのデメリットに関しては理解してもらっているからちゃんと公私切り替えている。
……私を酔わす効果のあるパイロンの実もガッツリ場所やら使用規制がされて涙を飲んだのは最近のこと。
私ももう外でへべれけを晒すことはないという安心感と寂しさは同時にあった。
イタ吉たちは準備を終えると少し離れ。
そのまま壁に手を置く。
力を込めると魔法陣の一部である壁が輝き下へと続く。
地面まで光が流れ込むと一気にイタ吉たちの前に広がり。
そのまま私を覆うように長方形に複雑な紋様が広がる。
最終的に床全体が明るく光った。
「昔は魔法陣1つ起動するのも大変だったな……」
「まあ、だいぶ改良を重ねたのもあるけれど……イタ吉も強くなったしね」
魔法陣自体の改良によって行動力消費効率がよくなったのは事実。
それ以上にイタ吉も強くなっているだけで。
それに気を良くしたのかイタ吉たちが軽く笑みをこぼす。
魔法陣からは雷撃のように私の周囲に魔力が走り私からグンと行動力が奪われていく感覚。
かわりに魔法陣がバチバチ音をたてるたびに石たちが再び魔石へと戻っていく。
つまり今私がやっているのは充電ならぬ充魔力なのだ。
この魔法陣は私から吸った行動力を1度色のない魔力に変換する。
そのあと魔力を領域内の魔石に込め直すというもの。
高行動力を持つニンゲンや大魔石から小魔石への移し替えで使う。
魔法陣はいわゆるハードウェアだ。
私はソフトウェアの方が強いので詠唱や魔法の覚え方や作り方の方が得意。
ユウレンやカムラさんそれにドラーグなんかもしっかり魔法陣づくりしてくれて助かっている。
この魔法陣自体は他の街でも使われているが少し前までのアノニマルースでは、魔石とは拾って掘って集めるものだった。
しかし世の中は人口の急激な増加により加工次第で様々なことに使え新たな開発のもとになる魔石は需要と供給のバランスが大きく崩れだしていた。
というよりそもそもが値段高い。
だからこそ冒険者たちはちゃんと儲けを出せるのだが……
もともと高い所にさらなる価格増加で市場が滞っているらしくアノニマルースはつつかれた。
使い終わった後加工してもそれはそれで使いみちがあるため使い捨てしていたところ『ちゃんと売れば儲かるのでは?』と街全体の認識が変わった。
それゆえに今では既存の石をリチャージして使うのが一般的。
行動力に余裕のある魔物なら自力チャージも多くやるがそうでない場合と公務に必要な魔石は委託という形でほぼ私に投げられる。
今周囲にあるのは公務用魔石たちだ。
加工魔石たちはつまりはバッテリーの役割もあるため設置型とは別に切り離してつかうものはチャージ必須となる。
龍脈変換させたエネルギーはまだまだ全てをになうほどには至っていない。
龍脈自体が莫大なエネルギーすぎてとにかく使いづらいのだ。
「よーし、1つめの充電終わり、すぐ入れ替えるぞ」
「よいっしょ」
「そらよっと」
イタ吉たちがせっせと運び込んでいく。
充電が止まっている間は魔力が飛び交わないので安全なのだ。
まあ魔力の放出に触れてもびっくりして元気になるくらいだがもったいない。
「動くなよー」
「ほんと、動けないのだけが大変なんだよね……」
これをやっている最中私はこの魔法陣の軸になる。
そのため1歩も動いてはならない。
色々と試したが結果的にイバラを動かしていても不安定化するので動かないのが最も効率が良いとされた。
その調子で何度か繰り返し魔力が注ぎ終われば作業完了。
けれどイタ吉になぜか呆れ顔で見られる。
しかも3匹ともにだ。
「なんで足りるんだよ……お前、総量はそうでもないって言っていなかったか?」
「え、そうでもないはずなんだけれど……まあ回復し続ける分と送信自体効率化ができている事の組み合わせじゃないかな?」
「今回かなりあったのにな……」
実は補給を常に私ができるわけではないのでイタ吉や他の魔物たちも補給にチャレンジしたことがある。
結果的に言えば薬を飲んでのんでダウンしかけてなんとかなったことが多いらしい。
この私を支える行動力を回復したり効率化するスキルは他者には貸し出せないから特に際立つようだ。